進撃の巨人

□火曜日の憂鬱
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火曜日の憂鬱




パソコンの画面に表示されている売上表を眺めながら、エレンは全く別の事を考えていた。
店内の掃除をしながらも心は上の空だった。ランチを食べながらこの前一緒に食べたレアチーズケーキの事を思い出していた。
つまり、心ここにあらず。
最近、エレンは自分より年上の…恋人、恋人と言うには少しずうずうしいかもしれないが、でもちゃんと告白して、オッケーを貰ったので恋人…付き合って3週間目を迎えたリヴァイの事ばかり考えていた。
震える心を振り絞っての告白、触れるだけの唇…エレンの人生の中であれほど緊張した出来事は他にない。
そして拒絶せずに受け入れてくれた、彼。
(うん…ほんと、あの人が可愛すぎて…)
内と外とのギャップがエレンのハートにストライク。少し、いや、かなり口より手が先に出てくる粗暴なイメージが先行するが、実際はかなりの潔癖症で情に熱い男である。
そして一見ヤンキーあがりの風体のくせに、職業がジャズバーのピアニストだなんてギャップがあるにも限度がある。
初めて店に行った時は度肝を抜かれた。
また聴きたいな…あのピアノ…
売上表をぼんやり眺めながら色々な妄想や思い出を膨らませていたら店内の来客を知らせるベルが鳴った。
「いらしゃいませ…あっ!」
客はエレンの知っている人物だった。
「ペトラさん!どうも!」
リヴァイと同じ店で働いている、ペトラ・ラル。明るく利発的で接しやすい女性だ。
「エレン君!ほんとにココで働いてたんだね!」
「ええ、つい最近入ったばかりなんですけどね…」
ペトラは肩に担いでいた楽器ケースをカウンターに置いた。そして身を乗り出してエレンに詰め寄った。
「ね、ね、エレン君ってリヴァイさんと最近仲良いよね?彼、とっつき難いのに…気が合うの?」
ペトラの目が爛々と光っている。他人の恋バナを突きまわす時の目だ。
「もしかして!!あなた達、付き合ってる?付き合っちゃったりしてるの…?」
「えっ、あ、あの、」
獲物をとらえたかのようなペトラの迫力にエレンは押され、しどろもどろになった。
ペトラの推察通り、付き合っているのだが…同性同士であるし大きな声で公表しにくい間柄だと思っている。
「だーーいじょうぶだって!この業界、ゲイ多いし。ね、お姉さんに言ってみてよ」
ペトラはニコニコと詰め寄る。エレンは若干パニック状態で逃げる余裕がなかった。
変な汗が額に浮かぶ。
「いや、あの、つ…つきあ…」
もごもごと口走りそうになった時に、工房の半開きになっていたドアから店主のハンネスが出てきた。
「ペトラちゃん、もうその辺にしといてやれ。エレンもまだ青いガキだからな」
エレンにとっては助け舟、ペトラにしてみればお邪魔虫である。
「おい、エレン。お前は早く調整が終わったチューバをお客さんのとこに届けに行って来い。何してんだ、午前中には出来てたのに。」
エレンは恋人のことにうつつを抜かしていた間、仕事を忘れていたらしい。
エレンはそそくさと工房の方へ逃げる事にした。ペトラは心底残念そうな声をあげている。
「えぇっ!ちょっと、エレン〜!」
「…っと、すみません、ちょっと届けに行ってきます。ペトラさん、また続きはお店に行った時にでも…」
店ならリヴァイもいる。関係を公表するもしないも、彼の同意は必要かと思った。
「…は〜。私もちょっと強引だったかしら。ごめんね?またお店にも来てね!」
ペトラはニコリと笑いかけて手を振った。
エレンは軽く会釈をして工房の中に入る。
パタンと扉を閉め、深呼吸した。そして冷静になって考える。
(俺たちの関係って…確かに世間体から考えるとあんまり公には出来ないかもしれないけど、)
それでも
不安になる。
例えば、次に店に行った時にまた付き合っているのかと問い詰められた時
リヴァイに止められたらどうしよう。
それがその場を取り繕うためのウソだったとしても彼の口から
「俺たちは付き合ってない」
と言われたら。
心にズキンと鈍い痛みを感じた。
その言葉から、その場のウソが本当になるような気がして。
先程ペトラに問い詰められた時の自分の反応を思い返し、少し後悔した。
言ってしまっても良かったのではないか。
…いや、勝手に言うのはまずいかも
また蹴られんのヤだし。

わからない。

重たいチューバを車に乗せながら、彼にかける電話の内容をまとめることにした。


fin


お付き合い始めたばかりのお二人
悶々エレンくん




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