進撃の巨人

□木曜日始発列車
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木曜日始発列車



夜の帳で覆われていた空が少しずつ明るくなる時間。
仕事を終えた少しの安堵感からか、リヴァイは小さくホッと息を吐いた。
世間が起き出す少し前の早朝の空気をリヴァイは嫌いではなかった。
「エルヴィン、もう俺は上がるぞ」
店のクローズ作業の大半を終えてーのオーナーであるエルヴィンに声をかけると、リヴァイに便乗して一緒に帰ろうとペトラが駆け寄って来た。
「エルヴィンさん、お疲れ様です!失礼します!」
店を出かかったリヴァイに続こうと早口でオーナーに声をかけて、早朝の街へと足を踏み出した。
リヴァイとペトラ。ここでの双方の立ち位置は「仕事仲間」である。もっと詳しく言うならば先輩と後輩という間柄だった。
リヴァイは気付いているのか分からないが、ペトラは先輩の背中を追ってこのバーに入った。数年前の夏の日のセッションが忘れられずにいるのだ。

店から二人が別れるところまでゆっくり歩いておよそ徒歩10分。リヴァイは駅の近くのマンションに住んでいて、ペトラは始発電車で帰宅する。
その10分という近くなく、遠くなくの距離をリヴァイは一人で歩く時もあれば、今日のように仕事仲間と他愛も無い話をしながら歩くこともあった。
今日はいい天気になりそうだ。
漆黒からだんだん明るくなり紫色になった空、空気はシンと澄んでいて気持ちが良い。
そんな空の下を歩きながらペトラがそういえば、と切り出した。
「この間、ハンネスさんの楽器店でエレン君に会いました。」
ハンネスの楽器店は二人が勤めるジャズバーでも贔屓にしている店である。
「最近、見かけてなかったのでどうしてるかな〜と思ってたんですけど…、元気そうでしたよ?」
「そうか。」
おしゃべりなペトラに対して、リヴァイは口数が少ない…というかリアクションが一見クールである。
(それに俺は別に奴に会うのは久しぶりではないが)
リヴァイは昨日仕事前に立ち寄ったドーナツ店でのエレンを思い浮かべた。
珍しくスーツを着ていたエレン。だが着慣れていないのか、スーツに「着られている」感が満載で少し可笑しかった。それにサイズが合ってないのか、肩が少し落ちていた。
オーダーでスーツを作らせたいな、とぽつりと思った。今度良い店を教えてやろう。
買ってやっても良いのだが、そんな事をしたらおそらく健気なエレンは受け取りを拒否するか、受け取ったとしてもずっとタンスに仕舞っている事だろう。着なければ意味がない。体型は変わっていくものだから。
そんな事を考えている間にもペトラはおしゃべりを続けていた。
「…あと、昨日のドーナツ!リヴァイさんがああいうドーナツを買ってくるなんて珍しいですね。」
「ああ…。前にエレンが買ってきていて、美味かったからな。」
「へぇ〜!エレン君とは結構会ったりしてるんですか?」
ペトラが探りを入れてくる。
「そうだな…。よく俺のレコードを漁りに来たりしているな。」
「リヴァイさんはレコード収集が趣味ですよね。私も興味はあるんですけどプレーヤー持ってないからな〜」
…とペトラは他愛も無い会話の中からリヴァイとエレンの間柄を推察する。
確かバーの馴染み客であるハンジが「リヴァイは他人を家に入れない」という話をしていたのを思い出した。しかしその、他人を入れない家にエレンは入ってきている。ということは他人以上の関係であるというのは明確だ。そしてエレンはリヴァイに何かしらの影響を与えているのだ。
そんな話をしながら駅へ向かう。10分はちょうどいい長さだ。
「じゃ、またお話聞かせてくださいね。」
「ああ。気を付けて。お疲れ。」
「お疲れ様です!」
ペトラは定期をカバンから取り出して改札をくぐった。



エレンは最近、中身も見た目も素敵な恋人の隣にいても釣り合いがとれるように…と日々色々な努力をし始めていた。
そのうちの一つが、筋力アップである。自分よりも小柄な恋人は自分よりも体重が重かった。しかし無駄な脂肪は一切なく、鍛えて磨き上げられた素敵な身体なのである。
エレンは体型は標準をキープしているのだが、学生の時とは違い就職してからどうにも運動不足が気になっていた。
そこでエレンはこっそり早朝にランニングをすることにした。
まずは形からと、トレーニング用のジャージも購入してヤル気は満点。始めてから1週間が経とうとしていた。
河川敷に沿って走り、商店街のアーケードを抜けて駅で折り返して帰るというコースを決めて走っている。
(よし、駅だ)
いつものように駅構内の入り口のところにある裸婦の銅像にタッチしてから折り返そうと、銅で出来た豊満な女性の身体に手を伸ばした。
さぞやわらかそうな胸に指先が触れた時、
「…何やってんだお前。」
リヴァイが現れた。

「わぁぁぁああ!!びびビックリした!リヴァイさん!」
エレンは銅の彼女にぶつかる事だけは回避した。
「おは、おはようございます…」
いきなりのリヴァイ登場にかなり気が動転しているのか、息も絶え絶え頬は紅潮している。
「お仕事帰りですか?」
「ああ。」
なるほど、昨日ドーナツ店で見た時はきちんと着こなしていたスーツは、ネクタイをすこし緩め、シャツも適当に崩して着ている。チラリと見える鎖骨が素晴らしかった。
リヴァイはエレンの姿を上から下まで一通り見た。
「残念だったな、オッパイ触り損ねてたぞ」
「え、あ、いや、あの、」
「いつも毎朝、触りに来てるのか?」
いかにもエレンが銅像に恋する変態かのような言い草である。
エレンは全力で否定した。
「違います!俺はこの像をタッチしてから折り返してるんです!確かに大きなオッパイは魅力的だとは思いますが、俺はリヴァイさんのカッコイイ大胸筋の方が好きです!」
「そうか?俺は男のガチムチな胸より…こういう豊満な乳が見ていて楽しい。」
「…!!そんな!俺の胸じゃいけませんか?今努力していて…って、あっ!」
こっそりトレーニングしていた筈なのにこうも簡単に口を滑らせてしまった。
リヴァイは少し俯いて肩を震わせていた。
「ちょっと!!笑わないで下さいよ!」
「…くくっ、いや、別に笑ってはいない…可笑しいだけだ」
「同じです!」
空は、店を出た時よりも明るい色になっていた。
「あ〜腹減った〜。今からリヴァイさんとこ一緒に行っても良いですか?」
「…構わないが、家に砂埃を上げるなよ。あと俺は寝るから邪魔をするな。」
リヴァイが歩きはじめると後ろからエレンもついてきた。
「走らなくて良いのか?」
「いいです!今はリヴァイさんと一緒に歩きたいので!」
木曜日、早朝5時20分。
人通りの無い商店街のアーケードで二人は指を絡めた。



fin

一応これエレリなんです



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