進撃の巨人

□金曜日の華【前篇】
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金曜日の華【前篇】



リビングには白いソファーが置いてある。
これはリヴァイがこのマンションを買った時に買い揃えた家具たちの中でも一番のこだわりを持って選んだものである。
数ある家具の中でも最も重要視しているのがソファーだった。憩いの空間であるリビングで、その憩いの質は妥協したくないのだ。

エレンは朝からまた恋人の家に転がり込んであれやこれやとしていた(主に掃除である)始めてから約40分、その一連の作業が一息つき、エレンはそのリヴァイお気に入りのソファーの上で寝っ転がっていた。
今日はエレンは休みで、リヴァイはいつものように夕方から出勤である。
リヴァイはまだ掃除中で、寝室のシーツやら布団カバーやらを一式洗濯機に放り込み、掃除機をブンブンかけている。いつもの光景である。
エレンは一応、自分も手伝うと声をかけたのだが寝室は自分でするという彼の言い分に素直に従うことにした。
そして今。エレンは手持無沙汰だった。
なのでソファーに行儀悪く寝転んでいるのである。
片手にはスマホ。彼の掃除が終わるまで何のアテもなくボーっとネットに繋いでニュースサイトやらくだらないコラム等を読みながら彼を待っていた。
「…ん?」
くだらないと思って開いたコラム。その記事の一文に目を留めた。
それはエレンの恋人を愛したい感情と、単純な好奇心とを目覚めさせるものだった。
エレンはガバっと起きあがり、持ってきていたカバンをゴソゴソと漁った。
「いや、ある訳ねーか」
それから洗面所へ向かう。
ハブラシ等を置いている棚を調べてみた。
「…ここにも無さそうだな。ってかリヴァイさん持ってないのかな…持ってないよな。」
そこで思案する。この家であまり家探し的な事はしない方が身のためである。
そして、エレンの探しているものは買ったとしても恐らくそんなに高価な代物ではないだろう。
エレンは寝室へ向かった。
「あの、リヴァイさん?」
元気よくゴミを吸い取っている掃除機を持ったリヴァイが振り向き、スイッチを切った。
「なんだ?」
「ちょっと買いたいものがあるんで、出ますね。すぐ戻るんで。」
「…どこに行く?」
「あそこのドラッグストアです。」
マンションの近くにあるドラッグストアである。そこにはきっと探し物があるだろうとエレンは考えている。
「…。おい、エレンよ…。」
「はい。」
「ハンドソープの詰め替え、買ってきてくれ」
そういえばそろそろ中身が無くなりそうになっていた。
リヴァイがいつも使っているもので、香りはレモンシトラス。
こんな風にリヴァイのプライベートで使っているものを買いに行ける関係にある自分という立ち位置が嬉しくて、つい表情が緩んでしまう。
「じゃ、行ってきます。」
エレンは無駄にニコニコしながら出て行った。
その背中をリヴァイは無言で見つめたのだった。

エレンが出て行った後、リヴァイは再び掃除機のスイッチを入れて作業に戻ったのだが、やけに上機嫌だったエレンの顔が若干引っかかった。
(ドラッグストアへ、エレンが喜んで買い物に行く理由…)
なんとなく、思い浮かんだのはシモ系のネタだった。このあたりの地域で有名なドラッグストアのチェーン店に置いてある物なのでマニアックなグッズではないだろう。
大体、自分たちは初めて身体の関係を持ってからまだ片手で足りるほどしか事に及んでいない。まだマニアックなプレイに走る程マンネリ化もしていない筈である。
コンドームか…?リヴァイは気になったので再び掃除機のスイッチを切って、ベッドサイドの棚の引き出しを開けたが数種類のそれが当分事足りる分きっちり納められていた。
ローションもまだそれなりに残っている。軽いローションプレイならできそうなくらいだ。
ふぅ…と息をついた。
考えすぎか。何を一人で妄想をしているのだ。
確かにエレンが今日みたいに家に上がりこんでいる時は顔には出していないつもりだがムラムラする。だが、リヴァイはムラムラしててもエレンはムラムラしていないかもしれない。
もう、変に考える事は止そう。
今はこの寝室をより快適にするために掃除をする他ないのだから。

「ただいま帰りました〜」
しばらくしてエレンが帰って来た。ビニール袋がガサガサ音を立てているのが寝室にいたリヴァイの耳にも届いた。
ちょうど寝室の掃除も一区切りついたところだ。
部屋から出るとエレンがビニール袋を持ってリビングへ向かうところだった。
「あ、掃除終わりました?よかったらコレ食べません?」
エレンが再びガサガサと袋を漁り、中からアイスの袋を出した。
「パピコです!夏にはこれですよ!半分こしましょう!」
エレンはリヴァイの返事も聞かずにパピコを半分に分けた。
「どうぞ!」
問答無用でパピコを渡される。いつも、ほとんど、エレンはリヴァイの言うことには従っているのだが、こんな風にグイグイ押して自分の願望を叶えてしまうことがある。
そんな押しの姿勢のエレンを悪くないと思っているのはリヴァイだ。
渡されたパピコを咥える。
「夏のアイスといえばガリガリ君だろうが…」
「えー…。確かにガリガリ君も捨てがたいですが、誰かと一緒に食べるならパピコですよ!」
リヴァイはなんとなく、気になってエレンが持ち帰って来たドラッグストアの袋を見た。
その視線にエレンが気付く。
「あ、ハンドソープの詰め替え買ってきました。2つ買うとお得ってあったんで2つ買っちゃったんですが…腐るものでもないし、いずれ使うし良いですよね?」
ひとつはレモンシトラス。もうひとつはピーチの香りだった。
詰め替えハンドソープを2つ出すと、袋の中に少し小さめのパッケージの物が残った。
「それは?」
「えっあ、っあの、」
エレンはおずおずと袋の中から取り出した。
「…耳栓?」
それはごく普通の、飛行機に乗る時の耳の痛みを緩和するためだとか、水泳の時に水が入らないようにするための耳栓だった。
「はい、耳栓です。」
「なんのためだ?勉強でもするのか?」
「いえ、ネットで耳栓が良いとあったので、気になって…」
エレンはリヴァイが手に持っていた食べ終わったパピコをひょいと奪い、ゴミ箱に投げ入れた。
「ねえ、リヴァイさん…耳栓、きっと良いですよ、抱かせて。」
リヴァイは何を言われたのか咄嗟に話の脈絡が掴めず、眉を寄せた。
「は…?」
「抱かせて。抱かせて下さい」
エレンはリヴァイの襟首を掴み強引に口づけた。


後篇へ続く
金曜日の華【後篇】

ホントは分けずにR18ヤろうと思いましたが長くなりそうなので。
後編はR指定です



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