おねがいキスして。10題

□3、恋人のキスをして
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「六郎は恋とかしないの?」

ふと、気になった疑問を言葉にしてみた。

「恋ですか。」

六郎はしばらく考えて、

「秘密にしておきましょう。若に聞かれていたら、からかわれますので。」


と、言われた。
これは、はぐらかされたということなのかな?

「六郎が好きになる人なんて、きっと聡明で綺麗なひとなんだろうね」

「そうですね。」

と六郎が晴れた空を見る。

きっと、六郎の目には
違う人が写っているのだろう。

私なんか比べものにならないくらい、美しくて聡明で賢くて思慮深い。

そんな人なのだろうと思うとなんだか切ない。

私が努力しても努力しても、届かないって寂しい。

と俯く。


気づくと、私は泣いていた
「ごめんね…。なんだか泣いちゃった。不思議だね」とくしゃりと笑う。

六郎は私の頬につたう涙の粒を拭き取った。

そして、私は無意識に六郎にキスをした。


六郎は驚いた表情をしていた。
だから、私は部屋を飛び出して独り。泣いた。

1番好きな人が、自分のことを1番好きになってくれることの奇跡は起きないことに。ただ、泣いた。


(恋人のキスをして)

よっつめに続きます

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