L logbook

□『fortune or misfortune?』 前編
1ページ/9ページ


明日、自分はこの城を離れる。


義父が亡くなる前から話されていた縁談。


相手は国の中枢に入り込むほどの力を持った、一族の跡継ぎ。


とはいえ、自分はその男に会ったこともない。今日初めて会った。


名をなんといっただろうか?しばらく聞いていなかったので忘れてしまった。


父が亡くなって以来、その話をされることがなくなったためだ。


すでに決まったことだから、誰も話さないのだろう。


父の後を継いだ兄も、その話題には一切触れてこなかった。


だから、実感もほとんどない。


今この瞬間も、夢の中にいるようだ。


目の前にいる兄。その兄と話している、明日夫になる男。


「……どうした。」


遠い目で己を見つめている自分に気づいた、兄であるローが声をかけてくる。


現実から離れていた自我を引き戻して頭を下げる。


「申し訳ありません。少し考え事を。」


手をついてわびてくる自分に、兄は手を振る。


「気にするな。そういうつもりで聞いたんじゃない。」






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ