L logbook
□『fortune or misfortune?』 前編
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明日、自分はこの城を離れる。
義父が亡くなる前から話されていた縁談。
相手は国の中枢に入り込むほどの力を持った、一族の跡継ぎ。
とはいえ、自分はその男に会ったこともない。今日初めて会った。
名をなんといっただろうか?しばらく聞いていなかったので忘れてしまった。
父が亡くなって以来、その話をされることがなくなったためだ。
すでに決まったことだから、誰も話さないのだろう。
父の後を継いだ兄も、その話題には一切触れてこなかった。
だから、実感もほとんどない。
今この瞬間も、夢の中にいるようだ。
目の前にいる兄。その兄と話している、明日夫になる男。
「……どうした。」
遠い目で己を見つめている自分に気づいた、兄であるローが声をかけてくる。
現実から離れていた自我を引き戻して頭を下げる。
「申し訳ありません。少し考え事を。」
手をついてわびてくる自分に、兄は手を振る。
「気にするな。そういうつもりで聞いたんじゃない。」
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