短編用

□可哀相な子
1ページ/4ページ


そいつは突然現れた。




まだまだ幼さの残った、けれども冷たい表情の女。

年の頃は17,8だろうか。



「てめぇ、誰だよい?」



今モビーディック号は大海原のど真ん中にいる。

にもかかわらず、この女は突然現れた。

小船でこんなとこまで来たのか?




「お前は自由でいいよな、不死鳥。」

「は?」

「可哀相な子だとか言われたことないだろう。」

「何が言いたいんだ?」



額に青筋が浮かぶ。



「見ないうちに短気になったよな。」

「は?」



俺はこいつにあったことがあるのか?



「忘れて当然だよな。邪魔だったんだからさ。」

「邪魔だった?」

「そうだよ。」

「てめぇ、マジで何言ってんだよい?」

「酷いよな、お前。」

「何が?」

「一人だけ、自分の居たい場所で自由に生きてるんだからさ。」




何が言いたいんだ、こいつ。




「こっちは、ずっとお前の言いつけを守って待ってたのに。」


女の瞳に悲壮と怒りが映る。



言いつけ。
待っていた。

その言葉で、俺の脳裏に幼い少女がよみがえる。


「お前、まさか……。」

「やっぱり忘れてたんだ。」


怒りが消えて、悲しみだけがその瞳に残る。


この女が俺の知る少女であるならば。

こいつは俺の……。



「紅音、なのかよい?」

「そう、だよ。」

「おい、マルコ。誰なんだよ。」

「こいつは、紅音は、俺の……。」







ひとつ深呼吸をした。








.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ