中編用

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覚悟はしていた。

あの日、ここに来たときに。

もう逃げられない運命(さだめ)なのだと。

だったら逆らうことを止めようと。

ただただ、時間(とき)が決めた流れに従おうと。

それでも。

只ひとつ願いがかなうなら……。





――――― 一度だけ私に選択という余地を与えてください













いつもと同じ町を眺めていた。

流れ行く人の波。

レンガ造りの少し赤茶けた古っぽい町並み。



けど、ひとつだけ違いがあった。

街中からでも見える。



海の上に浮かぶ鯨のような船。

世界で一番有名な船。

『モビーディック号』。

かの有名な白ひげ海賊団が乗る船、それが見える。



世界で一番自由な人間が乗る船だ。




「…………。」




馬鹿な人間を装って見に行ってみようかと思った。


が、体はどうやらそうしたくはないようだ。



動いてくれない。

諦めて踵を返す。


さっさとあの牢獄へ帰ろう。

鞭で叩かれるようなことになる前に。







それから三日たった昼。

私はいつもの飯屋へ入った。

ちなみに私は13歳の女。

見た目も、そこそこだとは思っている。

職業は、商売女。



……の見習い。



明日には、店のリストに名前を載せられる。


私の店は13歳になってから半年後に名前を載せるという決まりがある。

明日がその日。

それまでに客と寝ても別に構わない。

本人の意思は尊重される。

13歳と半年までは。

それ以降は店の操り人形も同然。

ご指名されたらその男と寝る。

これが決まり。




それ以外のことでもちまちまとした決め事はあるが、基本的に拘束はされてない。

だから、昼間町をうろつこうと誰にとがめられることもない。


ただ、逃げたりしたら死ぬより恐ろしい罰が待っているという。

目にしたことはないけれども。



そして、そのルールのごとく自由に外をふらつき、いつもの飯屋に入って軽く驚いてる私がいる。

目の前に現れたのは、いつもの店の中にいる男数名。

その中に二人ほど手配書で見たことのある顔があった。




「いらっしゃい。」

「いつもの。」

「あいよ。」




亭主といつものやり取りをして、いつもの一番隅の席に座る。

いつもより騒がしい店内。




男数名の中に二人女がいた。

姿からして、同業者か。

私が働く店の女は、とりあえず腐るほどいる。

全員把握してる奴なんて、きっとオーナーあたりの店の御偉い様達ぐらいだ。

おそらく、同じ店の女。






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