中編用

□W
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傷がふさがるのには、思いのほか時間がかかった。


約2か月。



予定外だったが仕方がない。


この船の医者は、完治するまで患者を逃がしてはくれないから。




紅音は荷物をまとめに部屋に向かった。


今日は宴が行われるようだ。


どたばたと激しい足音とともに、料理のいい匂いが漂ってきていた。


それをチャンスと見た紅音は、少ない荷物を見下ろしながらベットに横になる。




何度も深呼吸をして心を落ち着ける。


船を抜け出すチャンスは、宴が始まってしばらくしてみんなが酔ってきたころ。


小舟にのってこっそりと抜け出す。




これしかない。




宴が始まってしばらく、そろそろ頃合いだろう。


紅音は部屋の外をそっと窺い、人がいないのを確認して部屋を出た。


船の中はだれもおらず、シンと静まり返っていた。


その静寂の中、足音を殺して小舟のある場所へと向かった。




部屋を出るとき同様、小舟のある部屋の中の様子をそっと確認する。


だれもいないことに胸をなでおろした。


中へと入り、手近な小舟に荷物を載せた。


そして船がつないである縄をほどき、海につながる扉を開けようとスイッチに手を伸ばす。






「待てよい。」





背後から聞こえた声に、びくりと身体が震えた。


心臓が止まりそうだった。





「どこに行くつもりだよい。」





震える足を叱咤して振り返ると、そこにはマルコが、いた。


まっすぐな瞳に射抜かれる。


声が出なかった。






「本当に、出ていくのかい?」

「そう、だよ。」





震える声でそう答える。


マルコが一歩近づいてくる。


それにピクリと反応してしまう。




何を言われるのか、何をされるのか。


一度頬を叩かれたことを思い出し、さらに身がすくむ。


マルコが無言で手を動かす。



とっさに目をつぶり、こぶしを握り、訪れる痛みに備えた。







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