長編用

□幼少期
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「紅音。」


紅音の頭から出てる狼の大きな耳がぴくりと反応してから、振り返った。



「なに?マルコ。」

「戦闘中の甲板をふらふらするの、いい加減やめろよい……!」

「だいじょうぶだよ。きをつけてるから。」



お尻から生えるふわふわの尻尾が、ひょんひょんと揺れる。




「そういう問題じゃないよい……!」

「え〜〜……。」

「紅音ー、これ以上マルコを怒らせるなよι荒れるんだからι」

「サッチがいかりのまとになってくれると、すごくうれしい。」

「それだけはお断りだ。」

「え〜〜……。」





ついさっきまで、この白髭海賊団は戦闘中だった。

そして、元気になった紅音は、戦闘があるたびに子狼の姿で戦場をうろうろする。

そのたびにサッチとマルコは肝を冷やす。



……いや、正確にはクルーのほぼ全員がなのだが。



それを知っていて、それでも止める気が無い紅音。

これに対して、マルコは相当ご立腹だ。




「だって、せんないにいても、つまんない。」

「戦場の危険に比べてみろい。つまんねぇ方がマシだろい。」

「え〜〜……。」

「紅音、お前が戦場をうろちょろするとな、戦闘に集中できないんだ。わかるか?」

「わかる。」

「そうすっとな、マルコや俺が怪我するかもしれねーぞ?いいのか?」

「やだ。」

「やだろ?だから、戦闘中は、船内で大人しくしててくれ。ってこと。」

「む〜〜……。」




紅音の眉間に皺がより、揺れていた尻尾がぱたりと落ちる。

これは、俺達が傷つくのとつまらないのを比べて、こうなってんのか?ι



「じゃ、さ。」

「なんだよい。」



紅音が上目ずかいに俺達を見上げる。


やべ、鼻血噴出しそう。


「たたかえたら、いてもいいの?」


「「………………ι」」


俺達は顔を見合わせてから、困り果てる。

そうきたか。




「いや、でもな。紅音はまだちっちゃいしなι」

「おっきかったらいいの?」

「そういう問題でもないんだがよいι」

「じゃあ、ちっちゃくてもいいでしょ?」

「いやだから、戦場は危ないから……ι」

「つよかったらいいんでしょ?」

「いや、まぁ結果的にはそうなんだけどなι」

「俺らの心境的には、そうじゃないんだよいι」

「じゃあ、マルコとサッチがおしえて?」




「……そんな顔で言うなよいι」

「……断れなくなるだろーがι」




「おしえて!」


紅音が俺らの服の裾を掴んで、にっこり笑顔で見上げてくる。

尻尾が『これでもかっ!』というぐらい激しく振られていて。

俺達はため息をついて、紅音のお願いに答える羽目になった。







これが、紅音が六歳になる少し前に特訓を始めたきっかけだ。






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