長編用

□帰郷
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船を飛び出してきてからしばらく。

いろんな島を見て回った。

ビブルカードを持ってきたから、すぐに追いかけてくるかなと思っていた。

けど後々に思い至った。

みんなの性格からして、しばらくはそっとしておいてくれるだろう、と。

予想通り、しばらく滞在した島にも迎えが来ることは無かった。


ほっとした。

しばらく一人でいろいろと考える時間が出来たことに安堵した。




「みんな、元気かなぁ。」





高い山から海を見渡しながらそんなことを呟く。

少なからず、誰一人として死んではいない。

ビブルカードが全て無事なのだから間違いない。





「ここにおったのか。」

「あ、ハンコック。」




この島で出会った『七部海 ボア・ハンコック』だ。

なんか意気投合しちゃって。




「何を見ておるのじゃ?」

「海だよ。」

「ふっ。おかしな奴じゃ。いつも見ておろうに。」

「こういう高い場所から見れば、また違って見えるでしょ。」

「一理あるな。」






「…………。」


「……仲間が、恋しいか?」




口を引き結んで海を見ていると、ハンコックに核心を衝かれる。

小さく小さく、頷く。

会いたい。


会いたい。



みんなに会いたい。



親父に会いたい。



隊長たちに会いたい。






マルコに……会いたい。



一人船を降りて気づいたこと。

私は……。



マルコが好きだ。

親としてなんかじゃない。

仲間としてなんかじゃない。

一人の男性として。





…………好きだ。





「涙ぐむほどに、会いたいものがおるのか?」

「……いるよ。」

「そなたがそれほどに思う者は、どんな者じゃ。」

「……厳しい人。自分にも、他人にも。」




あぁ、涙がこぼれそうだ。

思い起こすだけで、これほどに悲しいものか。

これほどに辛いものなのか。

知らなかった。




「それで、まじめで、仕事ばっかりで、頭がよくて、意地悪で、頑固で。」




声が震えてしまう。

これほどに、あの人を愛してたのか。

知らなかった。





「仲間想いで、優しくて、強くて、暖かくて……。」




優しく笑いかけてくれるマルコ。

でも……。

そんな強くて優しい人だから。




「……それですごく、脆い、ひと。」




そう、あの人はきっとすごく脆いひと。

なのに仲間を、家族を思って、親父を思って。

必死でその脆さを隠して、守ろうとする。

決して助けを求めない人だ。

だからあれほどに慕われている。

だからあれほどに愛されている。

そんなひとに、私は惚れてしまった。

敵うわけが無い。




「そうか。」

「うん。」

「……帰れぬのか?」

「帰ろうと思えば、帰れるよ。」

「帰らぬのか?」

「……どうしようかな。」




飛び出してきたのだ。

正直、帰りにくい。




「わらわ達はそろそろ船を出さねばならぬ。」

「そっか。」




残念そうなハンコック。

別れを惜しんでくれることが嬉しい。




「そなたさえよければ、アマゾンリリーに迎え入れるが?」

「さすがにカームベルトの上にある女人国には行けないよι迎えにこられなくなっちゃうもん。」

「そうか。それもそうじゃな。」

「うん。ありがとう。気持ちだけもらっとく。」

「では、わらわ達はここまでじゃ。達者でな。」

「ん、ハンコック達も気をつけてね。」




そして山の上には私一人が残った。






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