愛のカタチ

□Bittersweet
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マジで、ムカついた


何だよ、アイツのあの態度


“所詮アイドルなんだから、もっと適当に流してやってよ。そこまで求めてないからさ”


って、鼻で笑いやがった


所詮アイドルって、そのアイドル使って視聴率取ってんじゃん


適当って何だよ


流せってさ、お前が言う台詞じゃねぇーだろうが


「俺、絶対にもう二度とあのプロデューサとは仕事しねぇー」


「僕もです。出来れは二度と、顔も見たくありませんね」


潤くんと二人で収録の終わったスタジオを出て、込み上げている怒りを必死で抑えて楽屋に向かう


「ちょ、ちょっとニノと松潤、待ってよ…」


バタバタと音を立てながら追いかけて来たのは、相葉さん


向かいから歩いて来たのは、顔見知りのプロデューサ


デビュー当時からの知り合いで、僕達の事を結構可愛がってくれている


いつもなら立ち止まって挨拶をして、今度ご飯でも連れて行って下さいよ〜何て話す所なんだけど


今日はどうしてもそんな気分になれなくて、失礼だって分かっていたけど


ペコッと頭だけ下げて通り過ぎた、僕と潤くん


「あっ、お疲れ様で〜す。久しぶりですね」


「お疲れ様。何、相葉くん達収録だったの?」


「はい、そこのスタジオでバラエティーの収録でして…」


「何かあった?前の二人、ちょっと荒れてるよね?」


「えっ?まぁ…ちょっと(苦笑)」


「確かあのスタジオで収録してるのは……アイツか(苦笑)」


相葉さんとプロデューサの会話が聞こえていたけど、僕と潤くんは聞こえないフリをして歩き続ける


「ふふっ、相葉くんも大変だね……これか、あの機嫌の悪い二人のお世話かな(笑)」


「まぁ…慣れたくありませんでしたけど、慣れちゃいました(苦笑)また今度、飯に連れてって下さいよ」


「いいよ。鶏料理の美味しいお店を見つけてさ……相葉くん好きだったよね?今度一緒に行こうや」


「はい、楽しみにしてますね。じゃ〜失礼します」


そんな会話が微かに聞こえた後、またバタバタと走る足音が聞こえた


「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっとニノと松潤、待ってよ…」


追い付いた相葉さんが、グッと僕の肩を掴んだ


汗だくになりながら、はぁはぁと肩で息をしている相葉さん


「どうして貴方はいつもそんなに、汗だくで落ち着きが無いんですか?」


掴まれた手を払って、潤くんと一緒にまた歩き出す



「ニノと松潤が俺を置いて行っちゃうからでしょ!俺だって好きで汗だくで、バタバタしてる訳じゃねぇーよ」


何て言いながら着いて来る


仕方ねぇーじゃん


ムカついて、ムカついて、どうしようも無いんだから


このムカつきを、お前にぶつけない事を誉めて欲しい


もっと言うなら…


こんなにムカついてたのに、最後までアイドルスマイルで座ってた僕と潤くんを誉めて欲しい


「ニノ、飲みに行くぞ」


「当たり前です。もう飲まなきゃ、やってらんねぇーつーの!!」


しこたま飲んでやる


明日、朝一で仕事があったって、構うもんか


「相葉さん、よろしくお願いしますね」


「へっ??な、何が?」


なに間抜けな声出してるんですか


「僕も潤くんも、しこたま飲みます。こんなテンションで飲むんですから、すげぇ酔っ払います」


たぶん、悪酔いするんでしょうね


「だから、貴方には僕達のお世話と後始末をお願いします」


「えっ?何で、俺が…」


「同じグループのメンバーじゃないですか、メンバーの面倒を見るのは当たり前です」


僕、二宮和也と松本潤、そしてコイツ、相葉雅紀の三人でアイドルグループ嵐を組んでいる


自分で言うのは何だけど、結構人気者なんですよね


グループとしての仕事も忙しいし、有り難い事に個人の仕事も忙しい


アイドルだから歌も歌うし、ダンスもする


ドラマとか映画もするし、バラエティーだってする


昔から与えられた仕事は、いつも全力で取り組んで来た


人気が出た今だって、その姿勢は崩してないつもり


ちゃん自分達の立ち位置だって理解して、いかに番組を盛り上げるかって考えてるのに


身体を張る仕事だって、僕らはちゃんやるつもりなのに


あのプロデューサ、何て言ったと思う


「あっ、二宮くん達は、そんな事しなくていいから……そんな事は芸人にでもやらせるからさ、二宮くん達は笑って見ててよ」


「えっ?でも…」


「あっ、もしかして見てるだけじゃ不満?そうだよね、目立ちたいよね……じゃ〜さ“凄いですね、僕達に絶対に無理です”とか言って、にっこりカメラ目線で笑ってよ。得意でしょ、アイドルなんだからさ(笑)」


凄くムカついた


ムカついたけど、グッと拳を握って我慢した


「嵐の人達に怪我なんてさせたら補償金とか大変だけど、芸人なら見舞い金位で済むからさ(笑)」



目の前のコイツの言葉にカチンとした


何でそんな差別するような事を、わざわざ言うんだよ


確かに芸人さんには芸人さんにしか出来ない仕事もあるし、僕らアイドルだってアイドルにしか出来ない仕事がある


でも芸人さんだって、僕らアイドルだって同じ芸能人


どちらが怪我しても大変さは変わらない


我慢出来なくて…


目の前で笑ってるコイツに、一言文句を言ってやろうと一歩近づいたら


誰かに、グッと肩を掴まれた


視線を後ろに向けると、芸人さんで


「あの人、いつもああだから気にすんなよ」


「でも、悔しくないんですか?」


「ん?悔しいけど、間違っちゃいないからさ(笑)」


何で…笑えるんだよ


「でも、いつか見返してやるよ。アイツに、俺の番組に出演して下さいって言わせて見せるからさ(笑)」


僕の髪をクシャクシャと撫でると


「嬉しかったよ。あんたらが怒ってくれてさ……今度良かったら、一緒に飲みにでも行こうよ」


そう言って、笑顔で僕らから離れて行った

………本当は僕も分かってる


今、僕が思ってる事が綺麗事だって、心の何処かではちゃんと分かっている


ギャラとかが違う分、金銭的な保障が違うって……分かりたくないけど、分かってる


それなりこの世界で仕事をして来て、いい面も悪い面も見て来た訳で


綺麗事だけじゃ世の中が回らないって分かってる


でもそれを全部の飲み込んで、聞き流して笑ってられる程……まだ僕らは、大人になりきれていないんですよね


隣の潤くんも同じみたいで、複雑な顔でプロデューサを睨んでて


二人共込み上げて来る怒りを飲み込んで、その後の仕事をアイドルスマイルで熟した


なのにアイツは…


せっかく怒りを飲み込んだのに、最後のプロデューサの言葉に我慢が出来なくて


僕と潤は、プロデューサを睨みつけてスタジオを後にしたんだ
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