愛のカタチ

□悪魔な彼
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「翔くん、桜が綺麗だね」


生徒会室の窓を開けると、目の前に広がる桜色の景色


もう満開を少し過ぎているから、少しの風にでも薄紅色の花びらを散らしていた


満開の桜も好きだけど、この散っている桜も好き


「智くん、入学式の挨拶考えた?」


桜を眺めている僕の背中から聞こえた翔くんの声


「んふふ、大丈夫だよ。翔くんが考えてくれてるもん」


「ちょっと、最初から俺に丸投げする気、満々じゃん。今回はちゃんと自分で考えなよ」


「なんて言いながらも翔くんの事だから、もう考えてあるんでしょう?」


いつもそう


翔くんは、いつも僕のお世話をしてくれる


だから僕は、翔くんに任せておけば大丈夫なの


「確かに考えてあるけどさ、生徒会長は智くんじゃん。ちゃんと生徒会長の智くんの言葉でさ…」


「無理だよ(笑)だって僕、お馬鹿だもん」


「いや、さ…」


「それに生徒会長の話しなんて、誰も聞いてないよ。そもそも入学式なんて、新入生にとって眠いだけだもん」


クルッと後ろ向くと


「それに僕、生徒会長って言ってもマスコットみたいなもんじゃない?真の生徒会長は、副会長の翔くんだよ」


皆、言ってるもん


僕は翔くんの横で、ニコニコしてるだけで大丈夫だって


「僕、いつも翔くんに助けて貰ってるよね。翔くん、いつもありがとう」


ふにゃんと笑って翔くんを見れば、少し赤くなった顔で困ったように笑ってて


知ってるよ


翔くんが、僕のこの笑顔が好きだって知ってるから


いつもお願いする時は、この笑顔を作って翔くんを見るの



「とりあえず出来てるから、目を通してみる?」


「翔くんを信頼してるから、見なくても大丈夫だよ」


今は、桜を見ていたいの


クルッとまた後ろを向いて、窓の外に視線を向けた


「ここの所がちょっと気になるんだよね……ねぇ、智くん。ここなんだけどさ」


もう、煩いな


翔くんって、本当に真面目だよね


さっきも言ったけど、誰も僕の話しなんて聞かないよ


話しなんてしないで、よろしくね♪って、ふにゃんと笑っていれば大丈夫だよ


また風が吹いて、桜の花びらが舞った


本当に、綺麗だよね…


花びらに触れてみたくて、窓の外に手を伸ばす


ヒラヒラと舞う花びらが、僕の手を避けるように落ちる


人ってさ、手に入らないと、どうしても手に入れたくなる



触れられないと、触れたくなる


ヒラヒラと嘲笑うかのように舞い落ちる花びらに、一生懸命に手を伸ばし続ける


その時、ガラッと生徒会室の扉が勢いよく開いた音がして


「大野くん、何で今朝は俺の所に来なかったんだよっ」


はぁ…


背中から聞こえた声に、ちょっとうんざり


「僕、言ったじゃん。もう好きじゃないって…」


振り向きもしないで答えた僕


もう、あんたの事なんてどうでもいい


だってもう僕は、あんたには興味も感心もないんだもん


あっ…


やっと手の平に触れた花びら


ぎゅうっと花びらを握って、もう逃げられないように手の中に閉じ込める


「おい、話しをする時位、こっちを見ろよっ」


大きな声が聞こえたのと同時に


急に肩を掴まれて、強引に後ろを向かされた


「っ……痛っ」


そう小さな声で僕が呟いたら、翔くんが立ち上がって僕達に近づいて来て


「汚い手で触れてんじゃねぇーよっ」


僕の肩を掴ん手を外して、捻りながら


「あんた言ってたじゃん。智くんが好きって言った時に、男が男に好きなんてキモいってさ」


うん、言ってたよね


好きって言った僕を見て、キモチ悪いから近づくなって…


お前ってさ、何人もの男と付き合って別れてるんだろ?


可愛い顔をしてるけど、マジでキモチ悪いって


お前なんて汚いし、キモチ悪いから二度と俺の前に顔を見せるなって


僕を睨んで、そう言った


まっ、その割には簡単に堕ちたよね(笑)


もう少し、手強くて楽しめると思ったのに……全然手応えがなくて、ガッカリしちゃった


んふふ、でもさ…


キモチ悪いって言ってんのに、可愛い顔してって言っちゃう所が馬鹿だよね


キモチ悪い奴を、可愛いなんて思う訳ないじゃん


その言葉は聞いた時、イケるって思ったんだよね


「痛ぇーよっ!離せよ、櫻井」


翔くんは突き飛ばすように、掴んでた手を離して


「みっともねぇーんだよ。きっぱりとフラれたんだから、認めろよ」


僕の目の前に、スッと立って


尻もちをついて倒れた男を見下ろしながら、そう言った翔くん


カッコイイよね


いつも笑顔が爽やかな優等生の翔くん


でもキレると超迫力があるの


それに、けっこう強い


こうやって面倒臭い事になると、いつも助けてくれる


凄く、頼りになるんだよね



「先にそいつが好きって言って、俺に近づいて来たんだよっ」


「だから?」


「えっ?」


「智くんから近づいて来たから、何?」


翔くんは尻もちをついたそいつを見下ろしながら、ニヤリと笑うと


「お前に魅力がねぇーからフラれるんだよ。近づいて見て、最悪だったから速攻でフラれたんだろーがっ」


「……っ!な、何でお前に、そんな事を言われなくちゃ…」


「お前が馬鹿だから、教えてやってんだろうがっ」


カッとなった男が立ち上がって、翔くんの胸ぐらを掴んだ


「だから馬鹿は嫌なんだよな。直ぐに暴力に出るから……あんたさ、俺に勝てると思ってんの?」


翔くんに勝てる訳、ない


てか、この人に翔くんを殴る度胸なんて無いよね


そう思ったら、つい…クスッて笑っちゃって


翔くんの背中に隠れていたんだけど、見えちゃったみたいで


「お前、笑ってんじゃねぇーよっ」


翔くんの胸ぐらを掴んでいた手を離して、僕の方に手を伸ばした


翔くんは素早く、その手を払い落として


「智くんに触るなって、言っただろうがっ」


そう言って、今度は翔くんが胸ぐらを掴んだ


「……翔くん、止めて」


僕は翔くんの後ろから、ちょっと顔を出すと


「あの……ごめんね」


翔くんが胸ぐらを掴んでる人に、ペコッと頭を下げた


本当は、ごめんねなんて思っていない


もう好きじゃないってハッキリ言ったんだから


早く諦めて居なくなってよって思ってたんだけど


これ以上面倒臭くなるのは嫌だったし


謝って終わるんなら、早く終わりにしたかった


「あ、あのさ……とにかく、もう一度俺と…」


「無理だよ」


「そんな事、言わないで……そうだ、大野が美味しいって言っていた、あの店で…」


はぁ……本当、しつこいよね


「そんなの、社交辞令じゃん」


「はぁ?」


「すげぇ美味しいから、食べてって言うから食べたの。普通だなって思ったけど、しつこく美味しい?って聞くから、うんって言っただけ…」


「何だよっ、それ」


「あのお店なら翔くんが教えてくれたパン屋さんのパンの方が、何十倍も美味しかったよ」


言ったら何だか、無償にあそこのパン屋のパンが食べたくなった


「ねぇ、翔くん。今日のお昼は、あそこのパン屋さんに行きたい」


そう言って、翔くんの顔を見上げると


「いいよ」



そう言って翔くんは、僕を見てニッコリ笑ったの


「あっ、帰りに釣り具を見に行ってもいい」


「そう言えば、今日からセールだって言ってたよね」


「うん。ハガキが来てたんだ」


目の前の男の存在を忘れて、話し出した僕と翔くん


それが、頭にきたんだと思う


僕だって、そんな事をされたら怒っちゃうもん


その人がいきなり、また翔くんの胸ぐらを掴んで


もう今にも殴りそうだったから


「翔くんを殴るんなら、僕を殴ってよ。翔くんは何も悪くはないもん。悪いのは僕」


翔くんの胸ぐらを掴んでるその人を見て


その人が……んふふ、皆が可愛いって言ってくれる


ふにゃんとした笑顔で、その人を見て


「僕に人を見る目が無かったから……あんたが、つまらない人だって見抜け無かった僕が悪いの」


そう、笑顔のまま言ったの
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