愛のカタチ

□悪魔な彼
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その人が僕の胸ぐらを掴んだから


「殴ってもいいけど、覚悟した方がいいよ」


「覚悟?」


「知ってるでしょう?僕にファンみたいな人達が居るの。ただでさえアンタ、そのファンに人達に睨まれてるんだよ」


僕がずっと、ベタベタと引っ付いていたからね


こんな僕だけど、可愛いって言ってくれる人達がいて


性格はかなり問題ありだけど、顔だけは可愛いからね(笑)


その人達は男の人なんだけど、ふにゃんって笑って僕がお願いすれば


たいていの事は、どうにかしてくれる


こうやって面倒臭い奴の事も、今までだってキッチリどうにかしてくれた


僕の顔に殴られた跡があって、ちょっと悲しそうな顔をすれば…


慌てて僕の胸ぐらを離して


「馬鹿じゃねぇーの。最初から大野の事なんて、何とも思っなんか無かったし」


だからさ、そう言っちゃう所が格好悪いんだよ


もうこれ以上、僕を幻滅せないで欲しい


一瞬でも


心にも無い、薄っぺらな言葉だったけど


嘘でもアンタを好きって言った僕を、これ以上ガッカリさせないでよ


「男になんかに本気になるかっつーの!大野があんまり俺に引っ付いて来るから、仕方なく相手してやっただけで…」


もう何でもいいから、つべこべ言わないで早く僕の前から居なくなって欲しい


「櫻井も災難だよな。こんな面倒臭さい奴のお守りをしててさ……あっ、もしかして櫻井って、そっちの趣味?」


馬鹿にしたような目で、翔くんを見るそいつ


「ふふっ…あはははっ(笑)そうか、大野にキスでもして貰って、ずっと側に居るの?それとも、身体を使って誘惑されてるとか?うわ、マジでキモイな」


ニヤニヤした顔で翔くんを見た


コイツ、マジで最低


僕も最低だと思うけど、コイツはそれ以上


僕は最低最悪のコイツのブレザーの裾を、クイッとちょっと引っ張って


「………僕の事、好きじゃ無かったの?僕の事……気持ち悪かった…の?」


ちょっと悲しそうな瞳で見上げる


「いや、あの…」


なんで真っ赤な顔してんの?


僕の事、何とも思って無かったんでしょう?


キモイんでしょう


「確かに僕、もう好きじゃないって言ったけど……僕は…ちゃんと、好きだったよ」


んふふ、好きだって


本当、薄っぺらな言葉(笑)


「でも僕は男だし……いくら好きでも、やっぱり無理だから…」



ポロッと涙を一粒、こぼしてみせる


「だから僕、好きじゃないって言ったのに……僕の事なんて、好きじゃ無かったんだね」


笑っちゃいそうだったんだけど、頑張って悲しそうな笑顔を浮かべてみた


「ち、違うんだ、大野。お前が好きじゃないって言うから、俺も好きじゃなかったような事を言ったけど…」


そいつは慌てて僕の肩を掴んで


吐き気がする位に、気持ち悪い欲の孕んだ瞳で僕を見た


「………僕の事…好き?」


ちょっと首を傾けて、甘えたように顔を見上げる


「おう。す、好きだ。だから、これかも俺と…」


本当、馬鹿だね


馬鹿過ぎて、可哀相になって来る


「んふふ、良かった…」


ふにゃんと笑って、馬鹿なそいつを見る


気持ち悪い位に、デレデレとした顔


今直ぐに、そのしまりの無いその顔を


悲しみと絶望に染めてあげるね


翔くんの事、馬鹿にした罰を与えてあげる


「好きじゃないって言った僕の言葉、間違いじゃ無かった。んふふ、あんたの事フって良かった」


「えっ?……大野?」


「何を男相手にマジになってるの?男の僕の事を好きだって、ずっと一緒に居てなんてさ笑っちゃう(笑)」


「大野、お前っ」


「気持ち悪いから、僕に触らないでくれる」


僕の肩を掴んでいたそいつの手を、パンって払い落とす


「僕と翔くんはアンタが言ってるような、そんなつまらない関係じゃないよ」


僕は思いっ切り、そいつを見下した目で睨んで


「馬鹿な奴って、何処まで行っても馬鹿なんだよね(笑)ちょっと好意を見せれば誰にでも簡単に尻尾を振ってさ、口では偉そうな事言ってるけど見え見えで笑えるよ」


「っ!大野、お前…」


「知ってたんでしょう?僕がゲーム感覚で、男を堕として楽しんでるって(笑)」


そう、僕にとってはゲームと一緒


気になった相手に近づいて、相手に好意を見せる


簡単に僕の誘いにのりそうな奴には、絶対に近づかない


手強ければ手強い程、夢中になって相手を堕としに行く


ゲームセットは、相手が僕に“好き”って言った時


相手が僕に“好き”って言った途端に僕は


目の前のその人への、興味も感心も無くなるの


そして安心するの………僕だけじゃないって


他人を傷つける事でしか、僕の心の傷を癒す事なんて出来なくて


でも…


でも時々、疑問に思う時がある



本当に、僕の傷は癒えてるのだろうかって


もしかしたら僕は、自分で傷を広げてるんじゃないかって…


そう思っているんだけど、今さらどうする事も出来なくて


このざわつく、苦しい心を持て余してしまう


それと、あの時の先輩の顔が…


最後の先輩の言葉が、僕をがんじがらめにして


僕はまた他人を傷つける事しか、出来なくなるの


多少の罪悪感はある


でも、目の前のコイツみたいな奴を見ると


僕の中のほんの少しの罪悪感は無くなって


僕が悪いんじゃない


僕をこんなふうにした先輩が悪い


僕に簡単に堕ちる、コイツらが悪い


僕の心のざわつきを静められない、コイツらが…


この苦しさから解放してくれない、コイツらが悪いって


そう思って、僕はゲーム感覚で楽しむの


「んふふ、もしかして自分だけは違うって思ってた?自分だけには、僕が本気になるって…」


あっ、この台詞……先輩も言ってたな


あんなに僕を傷つけた、酷い人なのに


あんなに最低な人間だって思ってた人なのに


僕はその人と、同じ事をして同じ言葉を吐く


やっぱり僕はあの日、壊れちゃったんだよね


壊れちゃって、1番なりたくない人間になったんだ


「残念だよ。もっとアンタって手強くて、僕を楽しませてくれるって思ったのに……案外簡単に僕に堕ちちゃうんだもん」


クスクス笑う僕を見て、この簡単に堕ちちゃった馬鹿な人は


「お前って、悪魔みたいな奴だなっ!!」


そう、捨て台詞を残して出て行った


「翔くん、僕って悪魔みたい?」


翔くんの背中に抱き着いて、ふにゃんと笑って翔くんの顔を見上げる


「やってる事は悪魔みたいだけど、笑顔は天使みたいだよ」


翔くんはため息をつくと、僕の髪をクシャクシャと撫でた


「智くん、何を掴んでるの?」


「えっ?あっ…」


桜の花びらを掴んだんだ


「んふふ、綺麗な桜の花びらをね…」


そう言って手を広げたら、傷だらけの花びらがあって


あんなに舞ってた時 は、綺麗だって思ってたけど


手に入れてしまえば、こんなモノなんだよね


手入れた途端、興味も感心も無くなるの


こんなモノだったのかって、ガッカリするの


「………手に入らなければいいのにね」


「えっ?」


「ずっと手に入らなければ、僕はずっと夢中でいられるのに…」



翔くんから離れて窓辺に行くと、手の平の花びらを外に落とした


「ニノ、ここにいたんだ。探しちゃったよ」


何処からとなく声が聞こえて来たから、その声の主を探すと


背の高い男の子が歩いてるのが見えた


その男の子は桜を見上げてる男の子に近づいて並ぶと、一緒に桜を見上げた


たぶん、桜を見上げている男の子が“ニノ”


「新入生?」


僕の後ろに立った翔くん


「たぶんね」


まだ制服姿じゃないって事は、新入寮の寮生って事か


そう言えば言ってたかも、新入寮の人達が来るって…


二人で並んで何かを話してるんだけど、僕の所からはよく聞き取れなくて


ただ背の高い男の子の方が、ニノって呼んだ男の子に抱き着いたりしていたから


ニノって男の子は、その腕の中から逃げ出そとしてるみたいだけど


本気じゃなくて、ちょっと楽しんでる感じがして


この二人が凄く仲良しだって事が伝わって来た


もしかして、お付き合いしてる?


そう思わせる位に近い二人の距離


「犬がじゃれ合ってるみたいだな(笑)」


クスクス笑ってる翔くんの言葉


「……ねぇ、翔くん。あの二人って、恋人同士かな?」


「えっ?」


「僕が好きって言ったら、どうなると思う?」


「智くん、もうさ…」


「んふふ、明日の入学式がちょっと楽しみになっちゃった♪翔くん、覚えるから挨拶文の原稿貸してよ」


そう言って僕は窓辺を離れた
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