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不良なオレと優しいキミ








「そんなに、緊張しなくていいって。」




”でも、”




「翡翠からもなんか言ってあげてよ。」





俺に振るなよ。

にやにやしやがって、絶対見てやがったな。





「夜星の言うとおりだ。んなに意気込まなくていいっつーの。力抜け。」



愛星は不安そうな顔こそするものの、頷いた。


今日は愛星の声帯手術の日だ。



俺らは病院にいて、いま愛星を見送ろうとしている。



そんな中、愛星は失敗したらとか変な声だったらどうしようとか可愛らしい不安を抱いているようだ。




俺も愛星には行ってほしくねぇけどな。



本当はここには来ずに普通に学園で手術成功で祈るはずだったのだが。

愛星がどうしても来てほしいと言うのでついてきた。




でもこのメンツだったら、いくら愛星のお願いでも渋っているところだろう。


夜星はまだいい、星我先輩も来ることは予想していた。



しかし、何故姉貴がいるんだ。


それに俺が苦手としている日向先輩まで。





”じゃあ、行ってくるね。”





どうやら時間がきたらしい。

それぞれが頑張れなど声をかけていた。





「待ってるからな。」





”うん。”




愛星が手術室に入っていき、扉がしまる。


気まずい。




唯一の救いである夜星は変な呪文みたいなのを唱えているし、先輩たちは姉貴が喋らなければ口を開かないだろう。


肝心の姉貴は椅子に座り、目を閉じている。



すると、日向先輩が動いた。


琥珀の瞳が俺を捕らえる。



俺かよ。




日向先輩は俺の近くまできて、俺の髪を掬う。


全身にぞわっと鳥肌がでる。

星我先輩は困惑した表情でこちらを見ている。




見ているだけじゃなくて、助けろよ。





「ねぇ、愛星の恋人になったの?」




じっとりした声色で先輩が言う。



周りを見ると、そのことを知らない星我先輩は驚いていた。


姉貴も僅かながらも驚いていた。



夜星は呪文を唱えるのをやめ、こちらに視線を向けながら意地が悪そうな笑みを浮かべている。





「翡翠もやるわよね。椎名の人間なのに、神崎に手を出すなんて。」




ねぇ、と日向先輩は姉貴に視線を移す。


姉貴は相変わらずの無表情で日向先輩の言葉を流す。




「おい、夜星それは本当なのか?だとしたら、」





星我先輩は動揺を隠そうともせずに、夜星に問いを投げる。



夜星は肯定するだろう。


あいつはこのことで俺が悩んでいるのを面白がっている奴だからな。


それに愛しのお兄様に嘘はつかないだろう。





「さぁ、あたしは知らないッス。あたしの知る限りでは、ないと思いますけど。」



「玲、冗談言うなよ。びっくりしただろ。」





日向先輩が苦虫を潰したような顔をして、夜星を睨んでいる。


夜星が何故嘘をついたのかはわからないが、助かったので良しとしよう。




でもさすが日向先輩だ。

中等部のことまで知っているなんて。





「それより、ルイ遅いな。」




星我先輩の呟きにいち早く反応したのは日向先輩だ。




「あの駄犬来るの?」



「駄犬って、やめろよ。苦手なのも知ってるけど、仲良くしろよ。」





星我先輩は微笑みながら言う。



てか天然なのか、これは。




苦手どころじゃなくて、日向先輩はルイ先輩のこと大嫌いだろ。


誰が見たって分かる関係だ。




「なら、私はもう帰るわ。成功は後で教えてね。」




そう言い、日向先輩は去って行った。



日向先輩の退場のおかげで空気は大分軽くなった。





愛星、欲張りを言ってもいいか?




俺はお前の声が聞きたい。


その声で俺の名前を呼んで欲しい。





俺は手術の成功を祈る、愛星、俺のためにもどうか頑張ってくれ。












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