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不良なオレと優しいキミ
愛星の手術は無事成功した。
だけど今日は会えないといわれた。
顔だけでも、と我が儘を言ったら姉貴に止められた。
夜星は先に帰っていった。
星我先輩によると昨日は一睡もせずに愛星に害があるような手術ではないか確認していたらしい。
あいつの兄妹至上主義は本当に歪みがない。
星我先輩も日向先輩の様子が気になると帰っていった。
俺も帰ろうとしたら姉貴に引き止められた。
逆にルイ先輩は早く帰れと催促されていた。
渋々帰っていく先輩の背を見ていると姉貴が先輩とは逆方向に歩きだす。
俺は黙って姉貴の後を追う。
しばらくしたら、病院の中庭らしきところについた。
色とりどりの花が花壇に咲いている。
整えられた緑が生い茂っている木に淡い色のペンキで塗られた椅子や机もすべてが安らぎの元となっている。
「翡翠に言って置きたいことがあるの。」
姉貴は見ただけで恐怖すら抱かずにはいられないくらい真っ黒な瞳で俺を見据えた。
その瞳に少し怖じけづくが、そこは長年一緒にいたせいで耐性がついたのかすぐに冷静な思考がもどってきた。
「神崎と椎名のことか?」
姉貴が話しそうな話題を先読みすると彼女は図星だったのか僅かに眉をひそめる。
まぁ、何を言われても愛星を手放す気はないけどな。
「分かってるならいいけど。椎名を裏切る真似だけはやめて。ろくなことにならないから。」
「椎名の頭は姉貴だろ。」
まるで自分が操っていないかのような言い方をする姉貴に確認する。
「確かに権限を持ってるのは私だけど、翡翠を庇いきれる実力はないから。もし、翡翠が神崎に味方することになったら私は迷いなくあなたを切る。」
姉貴も椎名の頭だからといってもまだ中学生だ。
昔から椎名に仕えているジジイどもが口を出したら、椎名の代表として断れないだろう。
「気をつけて。椎名の家からは逃げられない。」
姉貴はそれだけ言って、去っていく。
俺と愛星の関係で一番の問題なのは椎名と神崎のお家問題というやつだ。
少し考えたくて淡い水色の木造の椅子に座る。
適度に吹く優しい風が頬に掠って気持ちがいい。
だけど姉貴の言った最後の言葉が気になる。
椎名の頭は姉貴であって跡取りも姉貴の子供となるだろう。
なら俺は椎名からみれば役立たずではないのだろうか。
少なくとも俺はそう思って生きてきた。
いくら魔術が使えても姉貴には勝てない。
勝つつもりもないけどな。
愛星は神崎の補佐になるように育てられてきた。
落ちこぼれの俺とは違い愛星は家からは逃げられない。
当の本人もその気はない。
前に私が神崎から離れたら夜星が私の変わりになるとかなんとか言ってた。
ようは夜星のためにも愛星は神崎に留まらなければいけない。
となると二人で愛の逃亡は無理だな。
考えにふけこんでいるとほのかな花の香りが鼻に掠った。
顔をあげてみると一人の少女が立っていた。
少女といっても自分と同じくらいの年だろう彼女は栗色の柔らかそうな髪を風になびかせていた。
「悩み事?」
すごく綺麗な声だ。
喋りかけられるとは思っていなかったので声がでず変わりに頷いた。
「あまり悩むと良くないわ。」
彼女は優しい声で俺に語りかける。
それが子守唄のようでどんな短い言葉でも真剣に聞いてしまう。
彼女の容姿のなかで特に特徴的なのは瞳だ。
姉貴の瞳に恐怖を感じるのとは逆に彼女の瞳は安心感を覚える。
森のような深い緑色で光の反射で所々が若草色に輝いている。
「私の名前は…」
俺は心のなかで思った。
なんて綺麗な人なんだろうと。
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