ばらかもん

□神崎×先生
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【次に会える、その時までに。】

あの島で直接本人に会うまで
ボクの中での「半田清舟」は『完璧』だった。

初めて彼の存在を知ったのは中学の時。
しぶしぶ付いて行った書店で彼の作品を見て思わず立ち止った。

(なんてキレイな字なんだろう)

息をするのも忘れ、時間さえもが止まった気がした。
それほどまでに彼の字は美しかったのだ。

その後、彼についての資料を集めた。
若い頃から数々の賞を受賞。
頭脳明晰でトップクラスの高校、大学へ進学。
雑誌での写真でしか知らないけれど、端麗な顔立ちをしていて、まさに非の打ちどころのない『完璧』な人間がそこにいた。
当然のように憧れ、彼を目指して真剣に書に取り組んだ。
少しでも、一歩でも彼に近づきたくて。
もし会えた時に、胸を張って話せるように。

…そう思っていたのに。

中学時代からの彼の友人は言う。
「半田?アイツほど不器用な奴はいねーよ。」
「一人じゃ二日と生きていられない。」
「館長を殴って九州の島へ追い出された。」

「半田に、会いに行ってみるか?」


彼の友人である川藤さんに付いて行った先で見たのは、ろくに書の練習もせずに近所のガキと戯れる彼の姿。
なんだよ、これ。
島に来てから出展された彼の字は以前とは全く異なった、『完璧』には程遠いものだった。
ボクに負けたことなんて全然気にした様子もない。

いきなり憧れと目標を失ったボクは、彼へ自分の中の『理想』を押し付けた。
結果――…

「うるさいっ!!!」

何が正解か分からない、そう言って地面に項垂れる彼の背中が酷く小さく見えて、「取り返しのつかないことをした」と自覚したときにはもう遅かった。

その後、「変わりたいんだ」と言って笑ってくれたけれど、ボクの身勝手で酷く傷つけたことには変わりない。
彼のハイキックを受けた首が痛い…
仰いだ空は東京のそれよりも高く青く澄んでいた。

彼はここで、彼にしか書けないものを生み出すのだ。
ボクには真似できない字を書く。
だったらボクも、自分の道を頑張って歩くしかないじゃないか。

鳴華で勝ったのは、彼が成長の途中だったから。
追い抜いたなんて自惚れだ。
本当はまだ同じスタートにすら立てていないのかもしれない。

「同じ道を進んでたらまた会うこともあるだろ」
彼の言葉を信じて進む。

次に会える、その時までに。

「少しでも貴方に近づきたいです。」

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