青の祓魔師

□志摩×燐
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今、俺の視界に広がっているのは
眩しいほどの青だった――…


青の世界にかすむ

「あ…悪ぃ、志摩。」
「いや、俺の方こそ…堪忍え?」

雲一つなく晴れ渡った青空の下、俺は目の前の青を前に動けずにいる。
空よりも深く澄んだ奥村君の青い瞳が、俺の目を僅か5センチ上から見つめている。
さっきまでのバカ騒ぎが嘘のように、妙な緊張感と静寂だけが二人の間に流れた。

いつものように奥村くんとふざけ合っていたら、ちょっとした拍子に二人してバランスを崩し、もつれ合うようにして地面に倒れ込んだ。
下が芝生で大惨事は免れたが、今度は怪我よりも厄介な問題に直面している。
地面にぶつかる直前、なんとか奥村くんを庇って抱き締めたまでは良かったが…
おかげで俺たちは今、奥村くんが俺を押し倒しているような態勢(傍から見たら超ビックリ)にある。
早く離れればいい。
頭では分かっているのに、なぜか体は金縛りにあったかのように動かない。
そしてそれは奥村くんも同じらしく、俺の顔の横に肘を立てて上体を支え、上から俺の顔を見降ろしたまま動こうとしない。

お互いに困惑した表情で見つめ合う。
相手の目から視線を反らすことができない。
そんな困惑や羞恥を隠すように、至近距離で見つめ合ったまま会話が続く。

「庇ってくれて、ありがと。」
「おん。奥村くんケガしてへん?」
「俺は平気。…志摩は?頭とか、打ってねぇの?」
「俺も大丈夫やよ。どこも痛いとこあらへん。
ヘラリといつもの調子で笑えば、「本当か?」と青く煌めく瞳が不安に揺れる。
優しい子だから、奥村くんを庇って俺が怪我することを恐れたのだろう。

「大丈夫や。ね、安心しい。」
もう一度笑いかければ彼の身体から力が抜け、ヘタリと俺に覆い被さるように崩れて来た。
「良かった…」と小さな声で呟く彼の身体は小刻みに震えていて。
悪魔に襲われたわけでも、ましてやこの程度で死ぬはずもないのに大げさだ。
しかし彼は本気で心配したようで…
俺の上に体を預けている奥村くんの背中に腕を回し、そっと震える背中をさする。
身長も体格もさほど差はないと思っていたのに、抱き締めてみると彼は随分と華奢な体をしていた。
奥村くんを抱きしめながらそんな事を考えていると、俺の肩辺りの服をキュッと握りしめた奥村くんがポツリと呟いた。

「…志摩のバカ」
「はい?」
バカやなくてアホにしてって、いつも言うてますやん…
なんて頭の隅で思いながら、なぜ今このタイミングで貶されたのかと眉を寄せる。
「なんで俺のこと庇うんだ…俺は怪我したって平気なのにっ…」
悪魔なんだから、と聞こえた気がして。
胸がギュウッと握り潰された感覚が押し寄せる。
「もし志摩が怪我してたらどーすんだよ!頭打ったり傷が残ったりしたら―…むぐっ!?」

「ちょい黙りぃ、このドアホ。」
自分でも驚くほどに低く鋭い声―…
奥村くんの後頭部を手で押さえつけて、顔を俺の胸へ埋めさせるようにして言葉を遮った。
しばらくは「離せ」と言わんばかりに暴れていた奥村くんも、俺が放す気が無いのだと悟ると大人しくなった。
押さえる手の力を緩めてやれば、空気を得るために顔を横に向けただけで逃げはしなかった。
艶やかで柔らかい黒髪を撫でる。

「それ以上は言わせへんよ、奥村くん。」
「ごめん、なさい…」
「分かればええわ。」

そう言いつつも…
はぁ、この顔は何で自分が怒られたんか理解できてへん…と心の中で溜息をつく。
坊や俺に何度怒られても奥村くんは、自分は「悪魔」だからと己を軽視し、無茶することをやめようとはしない。
むしろ何故怒られているのかが分からないといった顔をする。

「ホンマ…どうやったら自分をそない後回しにできるねん。」
「?」

奥村くんが俺の身を案じてくれているのと同じように
俺も奥村くんのことが大切だから傷つけたくないのだと
彼が気付いてくれるのはいつだろうか…

遠い未来を想うとクラリと目眩がした。
ああ、見上げる空は目がくらむほど青く眩しい。

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