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□(仮)愛が見えない悲恋系
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「ご懐妊です。二ヶ月といったところですね。」
「……え……」
喜びと不安が襲った。
「しかし…少し気になるところがあったのでここに行ってもらえますか?」
渡されたのは“心臓外科”への紹介状。
「…あなたの心臓は出産に耐えることができないかもしれません。麻酔は遺伝上…。母体か胎児か…どちらかを…」
言い渡されたのは、私かこの子の‘死’
ずっと迷っていた。
だから、彼に相談しようと思った。あの人が選んでくれたら私は…
そんな矢先…
「ジュリアの側についていたいんです。彼女には今俺しかいないんです。」
彼は初恋の彼女を友人として支えたいと言ってきた。
「しばらく連絡も取れないと思います。…距離を取るという形を取るか、別れをという形を取るか、あなたが選択してくれてかまわいません。」
…結局そういうことなんでしょ?
三年も一緒にいて、私はあなたにとって何も変わらなかった…変えることができなかった…
「…別れる…」
嘘でもいいから『好きだ』と、『待っていて』と言ってくれれば…私は…
「…私が目覚めなかったら…この手紙を…投函して…」
身寄りのない私を我が子のように可愛がってくれた彼女なら…
「渋谷さん!元気な男の子ですよ!」
「…男の……子……よか……た…」
「渋谷さんっっ!!」
「母上、その赤ん坊はいったい…」
久しぶりに会った母の腕の中には赤ん坊がいた。黒い髪の小さな…
「…ユーリさんの忘れ形見よ…」
「……え……?」
思いもかけない返答がきた。
ユーリの……忘れ…形見……?
それは…
「半年前、ユーリさんはこの子を産んですぐに、亡くなったわ…」
「……ユーリが……死んだ……?」
死んだ?ユーリが?
なぜ?
「自分か子供の命、どちらかの選択を迫られて……自分の命と引き替えに産んだの……。自分にもしもの事があれば頼むと、手紙が届いたから引き取ったの。可愛いでしょう?…あら、名残惜しいけどそろそろ行かないと…」
「っ待ってください!」
正直母の話は半分も耳に入ってこなかった。
半年前?それは…
「その子の父親は…?」
のどに渇きを覚えながら絞り出した声での問いに、母は振り向かずにただ一言残し去っていった。
「…そこまで愚かではないでしょう?コンラート…」
母のその言葉が、すべてを示唆していた。
「…すみませんユーリ……すみません…っ!俺は…あなたに何もっ、返せなかった…」
ジュリアを想っていてもいいからと、そんな言葉に甘えて、あなたと過ごした。
いつもいつも笑顔ですべてを許すかのように包み込んでくれていたのに、その存在の大きさに気づかずに、傷つけて。
本当はとっくにジュリアより大切で愛しい存在になっていたのに。そのことに気づかずに俺は…
『…別れる…』
あの時、あなたはどんな気持ちでそう言った?
俺を諦めながら?
自分に失望しながら?
…もし、俺が自分の気持ちに気づいていて、待っていてほしいと伝えることができていたら、あなたは生きていてくれた?
「…愛してる……愛してたんですユーリ…っ!」
俺はユーリが永久に眠る石の前で、地面に崩れ落ちたまま泣き叫んだ。
伝えられなかった言葉を、もう伝えられない言葉を何度も何度も。
ユーリに届きますようにと、微かな望をかけて…
『大好きだよ、コンラッド』
もう、その言葉は二度と聞けない。
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