Short Story
□パートナー
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「んじゃあ行ってきます、嬢ちゃん」
「いってらっしゃいヨザック」
ある高級マンションの一室の玄関先で、オレは新婚夫婦である相手の妻に挨拶をし家を出た。
オレの名前はヨザック・グリエ。世界的グループの日本支社で常務を任されている。名前でをわかるとおり外国人だ。
先ほど別れた奥さんは有利。こちらは日本人。オレは嬢ちゃんと呼んでいる。上司から薦められた見合いで断る暇もなく、そんなつもりは全くなかったのにあれよあれよとと結婚してしまった。幸いといっては何だが、オレにも嬢ちゃんにも相手はいなかったので悲しむ人はいなかった。だが、お互いに恋愛対象として見れないと第一印象で思っていたらしく、共に暮らすようになって2年、今もそれは変わっておらず清い関係のままだ。
だが…
「こんばんは、ケンちゃん」
「…遅いよ。」
その日の夜向かったのは嬢ちゃんが待つ我が家ではなく、この目の前で不機嫌そうな顔をしている彼女のマンション。
彼女の名前は村田健と言い、仕事で知り合い人生で初めて一目惚れした。嬢ちゃんとの話し合いでお互い好きな人ができても文句なしと決めていた。だから遠慮なく口説いた。妻帯者の俺からの口説きにいい顔はされなかったが、関係を話しやっと信じてもらえ、口説き始めて半年、ようやく交際に発展した。
「…奥さんはいいのかい?」
これはオレが来ると必ず聞いてくる言葉。
「今日は嬢ちゃんも友達と遊ぶって言ってましたから遅くなっても平気なんですよ。」
「…ふうん」
素っ気ない返答だが、嬉しそうにしているのがわかる。
「何度も言ってるでしょ?オレが好きなのも、オレを好きなのもケンちゃんだけだって。」
「…うん」
背後から抱きしめながら囁くと、身体を預けてくれた。
ケンちゃんも頭ではわかっているのだろうが、やはり不倫には変わりなく引け目を感じているんだろう。
潮時かな…
明日、嬢ちゃんに話してみようと決意を胸に秘め、オレは甘い空間を作っていった。
翌日、会社から帰宅し夕食を食べ終えた後、リビングでテレビを見ながらくつろいでいる時に話を切り出そうとするが…
「…あの…
「…ヨザック、話があるんだけど…」
先に嬢ちゃんが口を開いた。
「?…何ですか?」
出鼻をくじかれ拍子抜けするが、嬢ちゃんの真剣な顔に気を取り直す。
「…ん……あの…さ…」
言いづらいことなのか、視線を彷徨わせ口ごもる嬢ちゃんにオレは首を傾げながらも待つ。
そして、やっと口から発せられた言葉にオレは驚愕する事となる。