許して欲しいのか。
それすらも分からない。
あの首だけになった血まみれの少年が毎晩夢に出てくる。
許しを乞うていいものか。
それすらおこがましく思える。
命を簡単に奪っていいのか。


拙者は、生きていてよいのか……?





「殺したのは拙者ではない、拙者ではない…」

だが同罪だ。
例え下手人が父であろうとも。
あの罪もない若を殺した罪は、消えない。
あの一件から父とは会っていない。
上手く逃げ切ったのか、それとも捕まって殺されたか。
どちらにしろもう会えまい。
本当にどこをどう歩いたのかさっぱりわからないが、追っ手を撒く為山奥深く分け入る。
死んでもいいと思った。
死んで当然だと思った。
なのに捕まらぬために逃げ延びる。
そうして眠ると悪夢に苛まれる。
泥水をすすり、草の根を噛み、眠り悪夢に飛び起き、それを幾夜も繰り返し…。


目覚めたのはあたりに人の気配を感じたからだ。
囲まれている。
それも5,6人に。
殺気はだんだん近づいてくる。
心臓が荒れ狂い恐怖を煽った。
きっと追っ手だ。
ガサリと音がして敵が姿を現した。
やはり思ったとおり追っ手の侍だった。
足がすくみのどが渇く。

拙者はここで死ぬのだろうか。

死ニタクナイ

でも生きる資格もないであろう。

死ニタクナイ

母に捨てられ、妹に会えず。

死ニタクナイ

父にも二度とまみえることはない。

死ニタクナイ

なのに、なぜ…?

死にたく…ない!!

無我夢中で剣を振るう。
血油で斬れなくなった刀は捨て、敵の獲物を拾い斬る、斬る斬る…!
しばらくすると動いているものはいなくなった。
あたりは血の海だ。
咽そうなほど濃厚な血の臭い。
こんなに簡単に、人は死ぬ。
拙者も簡単に死ぬ。
死なぬ人間などおらぬ。
笑いがこみ上げてきた。

「は…ははは…。あはははは!」

返り血を浴びた姿のまま拙者は笑い転げた。
こんなにいとも簡単に人は殺せる。
簡単なことではないか。
人は生まれれば必ず死ぬ。
簡単なことだ。

簡単な…ことなのだ。


『狂気のままに咲き狂え』
に続く

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