血だ…。
拙者はこんなにも血に飢えている。
血を見るたびに笑いがこみ上げるのはなぜだ。
あの日…あの幼い少年を父が斬ってから、この刃がこの手がこの心がこの拙者の魂が血を求める。
初めて殺したときより何年経ったろうか…。
求めるままに人を殺め、もはや何人斬ったかも思い出せない。
やくざ者のけんかを代理することが多くなった。
やつらは年中どこかでけんかしている。
人を斬るのに事を欠かない。
いろいろな地を転々とした。
さまざまな人間にも出会った。
だが誰もこの心を埋める者はいない。
そんな人間に出会えるとも…思えない。

またでかい仕事が舞い込んだ。
拙者を雇った林田組と隣町のヤクザ者が縄張りをめぐって争う。
本当に、殺しに事欠かない連中だ。
静まりきった夜半。
夜襲をかけられた。
だがそれも予想の範囲内。
すぐに屋敷内は血の雨が降る惨劇の場となった。
肉を斬る感触、刀が骨に達する音、鮮明に飛び散る血。
全てが拙者を境地へ導く。

「ははは…」

気付けばあのときのように笑っていた。
初めて殺したときのように。

「あはははは」

斬っては畳に転がし、屍を越えて新しい獲物を屠る。
あの時と少し変わったのは、返り血をなるべく浴びないように立ち回れるようになったこと。
余計な進歩だ。
人殺しが上手くなっただけの。

「ははははははは!」

人を斬る。
命を奪うその一瞬が拙者の生きている証だ。
いつか拙者も誰かに斬られるだろう。
そのとき拙者もあんな顔をするのだろうか。
斬る相手にすら懇願するような、命を失う一瞬のあの顔を。
父が斬った若様のように。
あの少年は落とし胤と厄介払いされた。
斬ったことによりお家騒動が最小限に抑えられ、結果町人たちも巻き込まれずに済みあの藩は今現在も平和に栄えている。
だが斬った拙者たちは、いまだに追われる身である。
どうせ不平等に出来ているのだ。
ならば斬りたいように生きるしかない。

拙者は斬る。
容赦などしない。
命を奪い修羅の道を生きると決めたのだ。
祈る神などあるはずもない。
母の背を見送ったとき、拙者は神に殺されたのだから。






あとがきです。
読んでくださりありがとうございました。
シリアス書くのすごーく好きなのですが、ギャグなくしてYo-Jin-Boと言えましょうか?いや、否でござる。
次はなるべくがんばります。

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ