『彼女は冷たく微笑する』
その女は一風変わっていた。
何がと問われるとうまく説明できない。
着る物も出で立ちもそこらの女人と全く変わらないのに、何か違和感を感じるのだ。
棒は思い切って話しかけてみた。
「もし、そこの方」
女は振り返る。
普通なら何か反応があっていいはずなのに、女は棒を見て嫌悪も歓喜も何もない。
棒をじっと見つめ首を傾げた。
「あ…腹はへっておりませんかな。あちらでお茶でもいかが」
我ながらベタな誘い方だと思った。
普通こんな誘われ方をしたら女人は不信がって皆逃げる。
失策だったなと思ったのもつかの間、女は無頓着に頷いた。
やはり変わっている。
「ここの団子はなかなかおいしいから、遠慮なく食べてください」
団子屋に入り適当に注文する。
女は何をしても珍しそうだ。
団子屋に入ったことがないわけでもあるまいに。
それともどこぞのお嬢さんなのか。
「私は椿木泰之丞。棒と呼ばれることもあります。お嬢さん、よかったら名前を教えていただけますかな」
注文して品が来る前に自己紹介をした。
出会ってから彼女は一言も話してない。
まさかしゃべれぬわけでもあるまいと聞いてみたのだが。
「棒…?」
彼女は不思議そうに聞いてきた。
小さな銀の鈴を転がすような可憐な声。
思わず棒は微笑んだ。
「椿木の木と泰之丞の泰を合わせて棒と。あだなというやつですな」
「棒…」
「お嬢さんはなんとお呼びすればいいですか」
「私は蓼」
「タデ?」
変わった名前である。
蓼というのは蓼食う虫も好き好きとことわざにあるようにあまり良いイメージではない気がする。
彼女は笑っていた。
ただしあまり友好的ではない笑みだ。
「ヒトは勝手にいろんな名前をつけるから」
どういう意味かさっぱりわからない。
親に勝手に付けられたことを怒っているというのか?
『今はただ君を想う』に続く