『昔話の教訓』



「人魚姫の話、知ってる?」

突然用がそう言ってきた。

「煮ん魚秘め!?」
「心、また変な聞き間違いしてないよね」

用が疑いのまなざしで心を見る。

「だからあれだろ?煮た魚が人数分ないから、隠してあとでゆっくり食べようって話だろ?」
「…はぁ?意味わかんないよ」

全く見当違いの心の説明に目を丸くする用。
見かねた棒が助け舟を出した。

「人魚姫というのは上半身が人で下半身が魚という架空の動物だ。私は信じているが」
「あ、ああ。人魚ね、人魚」
「だからそう言ってるのに。って棒、信じてるんだ」
「無論」

そう、棒は信じている。
人魚姫も幽霊も。

「で?その人魚姫がどうしたんだ?」
「いや、かわいそうだなって」
「かわいそう?なんでだよ」
「心、このお話…知らないんだね」
「し、知らなくてわりーかよ!」
「だからもてないんだよ」

ついぽろりと禁句を言ってしまった。
心から熱いオーラが昇る。

「用…」
「あ、ごっめーん!つい♪」

用は押し殺した心の言葉を軽ーく受け流す。

「つい♪じゃねーよ!!」
「だってさ、いろいろ知ってると便利なんだよ。合コンときに『人魚姫に出てくる王子のようなへまは僕はしない。君の声が聞けなくても僕は君がわかるよ』『えー?用ちゃんかっこいー』ってさ」
「そ、そ、そんなうまくいくのか?」
「まぁいつもそんな会話してるわけじゃないけどね」

かいつまんで話すと…と用が心に人魚姫の話を始める。
棒はその間物思いにふけった。
もし自分の前に現れたら…どうしよう。
この姫を別の女人をそう容易く間違うだろうか。
そして死に至らしめてしまうだろうか。

「で、お姫様は王子を殺すことができず海の泡になってしまいましたとさ」
「なんでお姫様は王子が殺せなかったんだよ。自分が死んじまうのに」
「それだけ王子を愛していたんだよ。自分の命より王子が生きること、王子が生きて幸せになることを」
「命ってそんなもんじゃねーだろ」
「そうだよ。だからこそ意味があるんだよ」

心は全く納得していないようだ。
むーっと眉を寄せ考え込んでいる。

「大事なことは言葉で言わなきゃ伝わらないんだよ」

用はそう締めくくった。

『彼女は冷たく微笑する』 に続く予定です。

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