NanoSecond Stories
□男を信じるな
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正直に言えば、私は全くモテないわけじゃなかった。
コンプレックスだった歯を大人になってから綺麗にバッキリとした美しい歯並びに直したら、なんだか性格までもが明るく美しくなったような気がして、それをきっかけに微妙に男運が開けてきた。
心がけひとつで、人生は変わるらしい。
歯を見せることで以前より明るく笑顔が増えた私を、男性を筆頭に周りは歓迎してくれて、可愛がってくれた。
だけど別に女優になれるほどの美貌はないし(なりたいとも思わない)、特別人目を引くようなナイスバディでもなければスカウトされるほどのカリスマ性もなく、一般的な「ちょっと身奇麗で愛嬌のある人」として社会に出て生きてきた。
それなりにナンパされたり告白されたことはあったけど、芸能人にナンパされたのは、これが初めてだった。
後で知った事だけど、その頃、彼には彼女がいたらしい。
その人はあまり有名ではない女優で、私自身話を聞かされて名前を耳にしても「へぇ…?」みたいな微妙な反応しか出来ないような、言葉を選んで言えば「売り出し中の」女優で、美しさを売りにした腐るほどいる似たような見た目の女優ではなく、演技と普通っぽさを売りとした脇役専門のような人だった。
ものすごく正直になると、彼が選ぶ女の人にしては、地味だな、と思った。
彼ならもっと高級な、有名女優ともつきあえるんじゃないの?と思ったけれど、そうじゃないから私だったりあの女優さんを選ぶのかな、とも思った。
けど、彼は優しかったし、何よりも私は彼といると幸せな気持ちになれた。
不安はあったけどそれ以上にいつのまにか私は彼を好きになっていたし、彼のいない人生が考えられなくなるほどに、彼に夢中だった。