Bittersweet Stories
□優しい風の吹く日
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入院1日目にして、ミヌにはちょっとだけわかった事がある。
大人はミヌの存在が気になっていても、多少の羞恥心があるらしく、あまり関わって来ない。
個室なので関わる術もないのだが、遠巻きに自分が観察されているのは分かった。
だがそれも、重病人と男性患者以外にはあまり関係ないようだった。
特に子供とおばちゃんは容赦ない。
「あらあらあら〜〜、お兄さん男前ねえ?!
TV出てるの?コマーシャル出てるでしょう!チキンの!
おばちゃん見た事あるわよ〜ぅ」
「俺知ってるよ!
このひとMって人なんだよねー」
「ねえなんでここの部屋はTVが付けっぱなしでいいの?
ぼくんとこはダメなのにー」
「あのね、娘にサインと写真頼まれちゃってねぇ、お願い出来ないかしら?」
「おにいちゃんシンヘソンっていうんでしょう?」
などの微妙且つ恐ろしい間違いや質問を、いえそのCMもう俺じゃありません、お兄様はシナって言うグループにいるんだよ、この部屋は特別だからTVはずっとつけててもいいんだよ、写真は今はカンベンして下さい、シンヘソンは真ん中で歌ってる色の白い大福みたいな人だよ、と1個づつ訂正して答えていくのもなかなか骨の折れる作業だった。
初日はその仕事で終えたと言っても過言ではない。
とは言っても、暇だった。
相変らず子供はうるさいし、でも暇なので相手して暴れまわり、看護師に注意されるほどに、ミヌは初日にして入院生活を堪能していた。
用もないのに車椅子を乗り回し、走り屋魂を病院の廊下で炸裂させ、看護師に非常に嫌な顔をされたが、微熱のせいか子供と遊ぶのは新鮮で楽しかった。
ミヌは1日にして子供達のボスになった。
俺の事はボス、もしくはヒョンと呼べ!
イェッサー!ヒョン!
これはこれで、結構楽しい。ミヌは笑った。