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□la noche bonita
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彼は大学の中でも、ちょっと浮いた存在だった。
同じ大学に同じグループのキムドンワンもいたせいか、彼らが学内にいる時はいつも騒がしかった。
私には、ざわめくギャラリーに誰よりも彼自身が戸惑っているように見えた。
彼はあえて学内で皆と一定の距離を保っているようにも見えた。
見えない壁が常に、彼の回りには張り巡らされていた。
事実、彼はきっと卒業まで私の名前を知る事はなかったと思う。
同じ学部で同じ学科の彼と何度か話した事はあったけど、私は一度も彼に名前で呼ばれたことはなかった。
「……?」
教室のドアを開けて、がらりとした誰もいない空間をぐるりと眺めた彼は、唯一その場にいた私に視線を向けた。
奨学金を貰っている以上単位を落とすことが許されない私は、試験前の教室で1人、黙々とテキストを見ながら復習をしていた。
図書室は人が沢山でなかなか集中できないので、私は空き教室を探してはこっそりと忍び込み、黙々と自己勉をしていた。
夜はアルバイトがあったから、私の自由になる時間は昼間しかなかった。
ポカンとしている彼に向かって、私は情報提供をする。
「…休講ですよ」
「休講…」
テキストやマニュアルが入ったリュックを、ドサリと彼は長机の上に置いた。
「先週の講義でそう連絡がありましたが…」
途中まで言って彼がその場にいなかった事を思い出した。
そうか、彼は休講の連絡が入るような連絡網を持たないのか…と思うと、ふと、かわいそうになった。
誰か、連絡してあげたらいいのに。
でも彼はきっと、同じ学部の誰かと連絡を取り合うような手段を持とうとはしないだろうな、とも思った。
どちらかと言うと顔は可愛いけど、彼はこの大学の中に生息し、たまに姿を見せる狼のような…孤独で孤高の存在だった。
「休講…そっか」
彼は用もなくそのまま椅子を引いて腰掛けた。