EXPLORE M

□A.M.07:05
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彼が嘘をついていなければ、彼の初めての全ては…全部私の「ハジメテ」でもある。


大人になる為の大半の段階を、私は彼と一緒に経験した事になる。



狼のような、虎のような、一見回りを寄せ付けない雰囲気を常に纏っている彼が、誰かに対して1度心を開くと、とても人懐こい子犬のような可愛い姿に変わる。


その姿を見られる人は本当に特別で、いつも尖ったような態度の彼からは想像出来ない甘え方に戸惑う程だった。


痩せた小さな身体を私に預けてくる彼の肩の重さが、何よりも心地よかった。




彼にとっての「特別」である自分がとても誇らしく、生まれて初めて自分の存在をすごいと思った。



特別な彼に愛されている自分。


特別な彼を愛している自分。




世の中の全ては自分達の為に回っているかのような錯覚さえ覚えた。





彼は高校に通っている間、一人暮らしをしていた。


彼がダンスのコンテストに出場する為の練習をしていたのが私の家の近くの公園だったので、塾の帰りや夜遊び帰りによく彼の踊る姿を見かけていた。



痩せた小さな身体をくるくると操り、ステップを踏んではターンやジャンプを織り交ぜる。


音楽を小さく流して、音符の上を流れるように身体にリズムを刻んでいた。



その姿を何分か眺めて、

飽きたら、
身体が冷えたら、

家に帰る。


私はそんな日々を繰り返していた。



半年以上、私は彼を眺めるだけで何もせず、彼もまた、私が眺めていることを知っていたけど、特に学校で話しかけてくる事もなかった。




きっかけはほんの偶然で、たまたま彼が風邪を引いていたから、それだけだった。


風邪でだるい身体を持て余した彼は、いつもより早く練習を止めて公園を出ようとしていた。


そこに私がいつものように通りかかった。



なんだ、今日はもう終わりなんだ。


そう思って通り過ぎようとした私の耳に、彼の咳が聞こえてきた。



「…風邪引いてるの?」

「ん?…いや、平気」


私は咄嗟にポケットに入れっぱなしになっていた、イチゴの味がするのど飴を彼に差し出した。


私の手のひらに乗せられたのど飴を、彼は珍しいものを見るように見つめた。


「え?くれんの?」

「うん。
これビタミン入りののど飴なの」

「…ありがとう」




触れた手の熱さが、微熱だったかどうかは分からない。



私と彼は、半年の潜伏期間を簡単に乗り越えてその日、のど飴一個で恋を始めた。
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