Bittersweet Stories
□私は幸せ
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「私は幸せ」
俺には名前がない。
与えられたのは、仕事を行うに当たっての便宜上都合のよい記号と番号だけ。
不便など感じたことはない。
俺に名前が必要になるシチュエーションもこの先あるとは思わないし、これまでだって名前を必要とせずに来た。
俺には名前など、必要なかった。
あえて言うならば、名もない天使。
天使に名前など必要ない。
どうせ人間の視界には、俺の姿など映る事もないから。
与えられた記号と番号は「D-1121」。
かいつまんで言うと、俺の仕事は人間の恋を、恋愛感情をコントロールする事、それだけ。
ちなみに、サンタクロースは世襲制だったり国家試験でその仕事に就く資格が与えられるそうだけど、天使の場合はちょっと違う。
単純に神様に気に入られた者のみが、その資格を得るのだ。
噂によると、神様はなかなかの面食いらしい。
俺が言うのも可笑しいというかぶっちゃけ自画自賛って感じでもあるけど、一般的にそう“らしい”と、天使の間では話が浸透しているし、実際の所そこそこのルックスが揃っているんじゃないかな、と、他の天使の姿形を見て率直に思う。
まあ、人間の眼には映らないらしいから、何とでも言えるけど。
天使の仕事には大きく分けて、3種類。
…この説明についてはまた今度、ゆっくり時間があるときにでも。
俺にはあまり時間がないから。
多分他の優しい天使たちが教えてくれるよ、たぶんね。
見えたら、声が聞こえたら、の話だけど。
その日、俺は与えられた仕事を全うするべく、その街に居た。
今思えば俺が少しでも楽をしようとタイミングを計ったばかりにこんな事になった訳で…
彼女らにも彼らにも申し訳ないなとは思うけど、俺はその偶然と間違いに、今では感謝している。