NanoSecond Stories
□Crazy Rendevous
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「ね?ないでしょう?」
「…ほんとだ、ない」
空港へ向かう準備を終えて、家を出るまでの時間が多少あったので、私はそう言いながら来年更新の私のパスポートを彼に見せる。
「なんか、よく考えるとすごいな。…夢みたいだ」
「後からいくら考えたって正しい事実は見つからないんだもん、そういう運命だと思うことにした、私は」
韓国語教室に通うようになった私は、随分と会話力も上達したと思う。
この頃では口喧嘩しても単語の多さで勝てるようになった。
そんな私を彼は、憎らしそうな悔しそうな目で見る。
けどそれも一瞬で、すぐに仲直り出来るのが私たちの良いところなんじゃないかな、と思う。
「じゃ、そろそろ出るか…出たくないけど」
「そんなん言ってたって、仕方がないじゃん。
いいじゃない、どうせまたすぐ仕事で日本に来るんでしょ?」
「でも、仕事で行っても時間はそんなにないし、俺仕事に集中してるから構ってやれないよ」
「仕事だもん、集中しないとダメじゃん。
ちょっとでも時間が空いたら連絡してよ、私がそっちに行けそうだったら行くから」
「行けない理由がむかつくな」
「今からまだ起こってもいない事にムカついてどうすんの?」
私が笑うと、こういう時ほんっとめんどくさいなーってぶつぶつ言いながらもジャケットを手にとって、彼は私のリモワのスーツケースをゴロゴロと引いて玄関へ向かう。
「あ、ねえちょっと、それ外もで引いてるから家の中では手で持ったほうが」
「いいよ、そんなの。
後で掃除すればいいし」
…さすが掃除魔。
私は掃除の回数を一度でも減らす努力を怠らないくらいなのに、彼はまるで「掃除するきっかけ」を待っているかのようだ。
そんな調子で彼は自分の車に私のリモワとエルベの一番大きなサイズのトートを後部座席に無造作に積み込む。
…ああ、だから外でも引いているスーツケースなんだから、そんな風に置いたら皮のシートが汚れる…
「金浦でいいんだよな?」
「うん」
「あまり近いのもこう、残念だな」
「?ナニが?」
「もっと遠い空港でもいいな、って思っただけ」
「…?でもさ、遠くても近くても、こうやって送ってくれるなら…一緒にいる時間って同じじゃない?」
「…そういうもんでもないんデスヨ」
ハンドルを捌きながら、サングラス越しにちょっと彼は笑った。