NanoSecond Stories
□それだけの話
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好きで好きでたまらなかった、好きを我慢することが出来なかった、そんな日が私達の間にも間違いなくあった筈なのに、ほんの少し前の私達が嘘のようなこの沈黙。
どうにもならない。
言葉が続かない。
「…この沈黙に耐えられないんだけど。ねぇ、なんか言ってよ」
「うん」
そう呟いたきり、彼は…ドンワンは黙り込んだ。
膝を抱えて、黙って床を見つめている。
何のアクションも起こさない彼に私は少しだけイラっとする。
「ねぇワニ。私達、ただ黙って同じ場所にいるだけ。これって意味のある事?」
私の言葉に反応した彼は一瞬、顔を上げて傷ついた顔で私を見つめた。
…最初から、こうやってちゃんと目を見て正面からきちんと向き合って、お互いを分かり合えてたら、今頃はなんか違ったのかな…そんな事をぼんやりと考えられるくらい、私達は黙って見つめ合っていた。
「あのさ。ただ一緒にいるだけでいい、とか…そんな風に思ったらダメだったのかな。
…俺はそれだけで充分なくらい安心出来たし幸せだとか思っちゃったんだけど」
「でも、一緒にいることも全然出来なかった」
「うん、それはごめん」
そう呟いた彼は、いつか私が話した事を覚えていたのだろうか。
―ミアネって可愛い言葉だよね。
―へ?なんで?
―響きが可愛いじゃない、なんとなく。
―そうかなあ?
―うん、私ミアネって単語がハングルで一番好き。
―そう?じゃあ俺一生言い続けるよ。
―なんで?一生悪いことし続けるって事?
―アハハ!違うよ。もしさ、俺たちの間に何か問題が起きたら、その時は俺すぐにミアネっていうからさ、ずっと俺の事許し続けてよ。
「なんで今、謝るの?ワニだけが悪いわけじゃないじゃん。謝らなきゃいけない理由があるの?」
「いや…なんか、あまり一緒にいられなかったから」
「そんなの…最初から分かってた事だよね?」
「うん、でもごめん」
「…謝られると、イライラする」
ドンワンはもう、傷ついたような顔はしていなかった。
ただ、何かを諦めた様な…無気力さだけが伝わってくる。
多分、それは私も一緒。
確かに私たちの間にあった、とてつもなく大きくて大事だったものが、もうどこにもない。
何もかもが、消えてしまった。
そして私達の間に今あるものは、ただひとつ。
めんどくさい、っていうどうしようもない感情。
「これ言うのすっごくイヤだけど。
ほんっとに言いたくないんだけど……
…もう、ダメって事だよな、これ」
奥歯で何かを噛み潰したかのように、苦い顔で彼がポツリと言い、私は
「うん、残念ながら、そういう事だよね」
そう頷いた。
いつもは笑っちゃうくらい場の空気を読めない彼が、珍しく話を進めようとしている。
「聞かせて欲しいんだけどさ。
俺の何が決定的だった?」
「決定的って?」
「だから…なんで別れたいって思った?」
正直に言うべきか、言わないべきかで私は迷った。