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□Showdown
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M/act 2
Showdown
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彼が私の道を、切り開いた。
今から8年前、当時彼はもう既に、スターと呼ばれる存在だった。
その頃世の中にはまだ「韓流」などという単語は存在せず、2002年に日韓共催でワールドカップが開催されるなんて誰も思ってもみなかった頃、私は彼を知った。
彼を知って私は初めて、自分の生まれ持った強運に感謝することになる。
私はツイている。
彼に近づいて行ける程の、強い運。
私はそれを持っていた。
親の付き添いで1年間だけ住んでいたソウルで、テレビで神話を見て、私は一発でミヌオッパのファンになった。
日本に戻っても変わらず神話のファンでい続けて、住んでいる時はまるっきり覚えられなかったハングルも頑張って覚えて、高校に入った頃に少年誌のイメージキャラクターにスカウトされたのをきっかけに、どうせなら、と流れるように韓国へ渡り、芸能界へ入った。
運よく日本語の話せるアイドルを探していた今の事務所に拾ってもらい、そのまま所属して今に至る。
歌はいまいち売れなかったけど日本語講座の司会としてそこそこ人気も出て、ミヌオッパに妹的に可愛がってもらえる存在になった。
ミヌオッパのファンはアジアの至る所にいるだろうけど、実際にここまで近づいて来られた人間は数えるほどだと思う。
私はどう考えても、ラッキーだ。
だけど、それだけに甘んじていられるような私では、なかった。
私は、自分で思っていたよりもずっと貪欲だった。
人の出入りが激しい楽屋で、私はエナメルのバレエシューズのパンプスの足をひらひらと揺らす。
「テユ君、見てこれ。
可愛いでしょ。秋先取り」
「いいね、それ。
どこで買ったの」
「こないだ日本に里帰りしてきて…。
やばいね、秋物入荷直後だったからさ、バーゲン品無視して新作ばっかめっちゃ買っちゃった。
ウォン高だからこっちで買うよりちょっと安かったよ」
「うわ!いいな、帰ってたんだ?
俺も東京に買い物しに行きたいなー」
「いいでしょ〜。
で、はいこれ、お土産。
ヒスのTシャツ。
これ本店限定なんだって」
「えー、マジで!?やった!
じゃあ今度なんか奢るよ」
テユ君は生まれも育ちも日本なので、テユ君との会話はいつも日本語だ。
私がこっちで活動するに当たって、当時同じ事務所だったテユ君と知り合い、地元が近いという理由もあってよくテユ君は私の面倒を見てくれた。
日本育ちのせいか韓国であまり欲しい服に巡り合えずにいた時に、テユ君に色々お店を紹介してもらったり(でも結局私もテユ君も服の買い物の殆どを日本でし
ているわけだけど…)、テユ君の事務所が変わった今でも、日本のファッションや流行モノの情報交換をしている仲だ。