□たとえ君が…
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『……』

朝、部屋で目覚めた恋歌はベッドから起き上がれずにいた。

別に怪我をしているとか、そういうわけではない。

昨日寝るときに感じた違和感。

それと同じような違和感が目覚めたときにもあった。

一人用のベッドで、隅っこに寝てしまったり、目が覚めたら誰かの温もりを探すように自身の隣を軽く叩いたりしていた。

『……何…してるんだろう…』

起き上がった恋歌は自分の部屋だと言われた室内をぐるりと見渡す。

室内にあるのは今自分がいるベッドと小さな机と椅子が一脚にクローゼット。

『ここが私の部屋?』

なぜか自分の部屋ではない気がするが確信はない。

そして昨日からずっと気になっているのは…

『ここに…何かあった気がする…

とても…大事なもの…』

恋歌が見ているのは左手。

もっと細かく言えば左手の薬指。

右手は右耳の上を押さえている。

その場所も違和感のひとつだ。

『手は指輪しかないか…

でも髪は…何があったんだろ…』

ひとつの指に嵌めていたとなれば指輪ぐらいしかないがそれがどんな形で、誰とのものだったのかまでは思い出せない。

髪にも何がついていたのか、ピン?リボン?バレッタ?考えてもわからない。

でもとても大事なものだったということは今でもわかる。

恋歌がひとりで思い出そうとしていると控えめにされたノックに意識を現実に戻された。

エ「恋歌?起きてるか?」

『え、あ、うん!』

ノックしたのがエースだとわかり、急いで扉を開ける。

そこには昨日と同じように笑うエースが立っていた。

エ「遅いからまだ寝てるんじゃねぇかと思ってよ」

考え事をしている間にだいぶ時間が経っていたらしく恋歌は慌てて準備をする。

寝起きのままエースと顔を会わせてしまったことを恥ずかしく思ったが、待ってくれているエースに申し訳なくてそんなことは考えないようにして素早く準備した。

『ごめんなさい』

エ「俺が勝手に待ってただけだし気にすんな

飯行こう」

そう言ってエースは恋歌の手を握る。

その手をふと見るとエースの手には指輪が嵌められていた。

しかも左手の薬指。

エ「どうした?」

『え、ううん

エースって恋人いるのかなって思って』

エースは一瞬きょとんとしたが恋歌の見ている先が自分の指輪だと気づいて嬉しそうに笑う。

エ「ああ!

そりゃあもう可愛くて、美人で、恥ずかしがりやで、優しくて俺の自慢なんだ!」

『そう

エースは幸せなんだね』

自慢気に言うエースの顔は誰が見ても幸せだとわかるぐらいの笑顔だった。

エ「まぁな

向こうもそう思ってくれてると嬉しいんだけど」

『?どうしたの?

向こうの人はエースのこと好きじゃないの?』

急にトーンの落ちたエースを心配して下から顔を覗き込む。

エ「いや、そうじゃねぇんだ

好きだって思ってくれてたよ

それは胸を張って言える」

過去形な言い方に疑問を感じたが、それを聞く前にさっきみたいに満面の笑みで笑われて腕を引かれたため聞くことができなかった。
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