復活

□全てが怖いと言うのなら
1ページ/1ページ


 全てが怖い。
  空さえも。何も、かもが。



 屋上から見る空は綺麗な青空だった。
何処までも続いていそうな、空は、無表情で、こちらの世界を見つめ返してきていた。
 まるで、飲み込まれそうだと。思った。
 綺麗すぎる蒼は、誰もの恐れをも買うし、見かたによっては、綺麗だと、絶賛の声があがる場合だってある。だが、俺は、この大きく、綺麗過ぎる、まるで、そう。作り物のような空に恐怖を抱いていた。触れれば、壊れてしまいそうな。そんな恐怖。
 それに、山本武だって、怖い。本当に、怖い。何もかもを見透かしそうなその瞳で、俺のことを見つめるから怖い。思いを告げれば、そこから、何もかも崩れていってしまいそうな。恐ろしさ。思いを告げれば、消え去ってしまいそうな、絶望感。
 俺は、その気持ちの名をまだ、見出せずにいた。
 紫煙が、空気に飲み込まれていく。
 何も無い空間に、手を伸ばしてみるが、やはり、そこには何もなくて。

「獄寺。こんな所に居たのか」

 誰もが認める爽やかプレイボーイが、顔を見せた。日に焼けた肌が、妙に愛しく感じた。やっぱり、俺にしてみれば、綺麗過ぎる代物だった。
 誰とも友達になれて、十代目からも、親友だと頼られて。勉強は出来ないけれど、その分、大好きな野球を精一杯頑張っていて。俺と言えば、友達もいなければ、十代目から親友だとは思われていないと思うし。勉強は出来ても、好きなものに熱中するという、ココロを持っていないし。
 山本が、俺に向ける、屈託の無い笑みは、いつも、俺の胸を締め付けるようなモノで。別に、俺のこと好きじゃないだろうに、付き合ってくれるその優しさに甘えそうで。苦しい。とさえ思う。

「どうした?獄寺?」
「ンでもねェよ」

 呆然と、見つめていた山本の顔から目線を離して、煙草を、屋上の床に擦りつける。
 あっと言う間に、煙草の煙は掻き消されて、底に残るのは、煙草の燃えカスとなった、黒っぽい灰だけ。見つめていると、心まで黒くなっていきそうだ。

「ツナ、呼んでたぞ」
「・・・おぅ」

 会話らしい会話なんて、山本と、したことがない。
 いつも、俺が、話をこじらせたり、ダイナマイトを放って、山本を黙らせたり、十代目と、話を始めたり。とにかく、山本と、会話らしい会話なんて、交わした覚えは無かった。交わしたと言えば、俺のアクセサリーがどうだと、ちょっと真剣に喋ったときだけだ。あとは、ちゃんとした会話をした覚えなんてなかった。
 涙が溜まりそうだ。

 俺が、寝そべっていた床から上体を起こし、立ち上がろうとしたときだった。
 行き成り、山本が、俺のことを、押し倒してきた。それから先は全てスローモーションで、目の中に映像として。入って来た。倒れこむ、体。その時の痛みと言ったら。
 ふいに、唇に何か押し当てられた。やわらかい何か。俺の、フリーズした脳ミソじゃ、なにも考えられなくなっていて、その、やわらかいものが何なのか、まったく見当がつかなかった。でも、1つだけわかったのは、山本の顔が近づいてきた事だけ。

「・・わ・・悪ィ・・よ・・よろけた!」

 山本は、それだけ言うと、ダッシュで、逃走していった。
 
 屋上に残ったのは、茫然自失となった俺と、煙草の燃えカスの、黒の灰だけだった。


end
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ