中編

□一方通行と読心能力者
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昼過ぎ、一方通行は目が覚めた。
腹が減った、とは思うがベッドから出たくない彼は、引き続き怠惰な時間を過ごしていた。

このところの彼は暇だった。
特に実験の依頼もなく学校にも行かない。
みょうじと過ごす夕飯の時間だけが唯一の予定、そして楽しみとも言えた。
初めてできたといってもいい同年代の知り合い。
これを素直に友達と言えないのは、彼にとって友達がいた期間があまりに短かったからだ。
能力開発が始まるまでのほんの短い間だけ。

しかし知人か友人かのカテゴリーなどどうでもよかった。
彼の中にある区分で今の関係が変わるわけではないのだから。
怖がらず普通の接してくれる。
それだけでよかったのだ。
――なのに、ずっと欲しかった存在ができたというのに、この引っかかりはなんだろう。
みょうじにひとつだけ言っていないことがあった。
この、力だ。
一方通行と聞いて聞いたことがあるような、と首を傾げた彼女に気のせいだ、とはぐらかした。
本当は、もっともっとあの子と話をしたい。
今までのこと、聞いてほしい。
でも自分にとって能力の存在は大きくて、このままでは自分の話などできない。

贅沢、なのだろうか。
この力を知っても、今と変わらず接して欲しい。
この力ごと受け入れて欲しいなんて。



みょうじの作る夕食を思い出す。
素朴、だった。
何年振りかわからない優しい味。
甘くて濃いめの研究所のそれとは違った味。
美味しいとか不味いとかそういうんじゃない。
顔の見える相手が自分のために作ってくれることが嬉しいのだ。
誰かと一緒にご飯を食べることが安らぐのだ。
そこで一方通行は寝返りを打ち、思った。
いつも作って貰っているそれが、

――みょうじの負担にはなっていないだろうか?



一方通行は携帯を手に取り、みょうじに電話を掛けた。
何回目かのコールの後に、彼女の声が聞こえた。

『はい』
「みょうじか?」

外出しているのだろうか。
彼女の声に交じって喧騒が聞こえる。
寝ていたことと緊張とで少し掠れた声が出た。

「奢るから、たまには外食にしねェか?」





数時間後、一方通行とみょうじはファミリーレストランに来ていた。
メニュー表を開きながらみょうじは嬉しそうな顔をした。
彼女の様子を見て一方通行は誘ってよかったと内心溜息を吐く。

「まさか外食のお誘いがあるとは思わなかったよ」
「あァ、それなンだが……」

一方通行が言おうとした時、二人のテーブルに数人の少女が近付いた。

「みょうじ、もしかしてデート?ぐうぜーん」
「彼氏いるって聞いてないんだけど」
「そういうんじゃないよ」

みょうじの様子を見ているとどうやら学校の友人であるのがわかる。
中でも小柄な少女は一方通行を見てビクリと肩を震わせた。

「白い髪に赤い瞳って……ひっ、」

『一方通行』を知っている者なのだろう。
超能力者としての一方通行をみょうじに知られては困る。
一方通行は彼女を睨みつけ、薄い唇を開いた。

『 黙 っ て ろ 』

その唇の動きに、少女は頷き早く席に着くよう友人らを促した。

「邪魔しちゃわるいよ」
「あー、そうだったね。ごめんね」
「じゃ学校で聞かせてね!」
「またね」

みょうじは手を振って友人らと別れた。
彼女らは少し離れた席に着いたようだ。
たぶん勘違いされちゃったよ、と小さく息を吐きながら一方通行に向き直った。

「……一方通行?どうして睨んでたの?」
「勝手に怖がっただけだろ。さっさと注文しよォぜ」

一方通行は適当にはぐらかしてメニュー表をトントン、と指で叩いた。




しばらくして、注文した料理が運ばれてきた。
一方通行はステーキ、みょうじはグラタンだ。
ナイフとフォークを持ち肉を切り分けながら一方通行は口を開く。

「さっき言いかけたンだが、オマエが飯作ってるの、無理してねェか?」
「え?」
「俺の飯作るのが負担になってンじゃないかって気になったンだよ」

みょうじは目を丸くして話を聞いていた。
食べていたグラタンを飲み込むと、少し考える。
そして言葉を選ぶようにしてたどたどしく話した。

「……好きでやってることだけど、正直……冷凍とかお惣菜で済ませたいことも、あるかも」
「たまには外食でもイイし」
「あ、じゃあ週に一回此処で食べるとか」
「イインじゃねェか」
「じゃあ週末はご飯食べに行こっか」

そう新しい約束をして、互いに食事を終えた後、店を出た。
一緒にいたい人が隣同士の部屋に住んでいる。
便利だと思う。簡単に行き来できるし帰り道を送るのも簡単だ。
みょうじが部屋に戻るのを見送った後、一方通行の携帯が震えた。着信だ。
通話ボタンを押すと研究者の声が聞こえた。

「一方通行だ…………それは、実験の依頼か?」




to be continued...
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