短編

□珈琲責め→カフェオレ責め
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蝉のさんざめく夏の昼下がり。
アパートの一室にインターホンが鳴り響いた。
「おじゃましまーす」
みょうじが来たようだ。
その声に一方通行は横になっていた身体を起こす。

「あっつー!喉乾いたー」

やがて顔をしかめ汗だくで歩いてくるみょうじの姿が見えてくる。

「冷蔵庫のアイス貰うよー」
「ねェよ。昨日のが最後の1本だ」
「うぐ……夜のうちに買っておけばいいものを…」
「食べンのは主にオマエだろが。食いたきゃ自分で買っとけ」

はぁーっと大袈裟なため息をついてみょうじはクーラーの風が当たる場所で立ち尽くす。
ちら、とテーブルに目を向けると氷入りの冷たい飲み物があった。
ただし色からして中身は十中八九コーヒーである。
一方通行のことだ。
砂糖もミルクも入ってないことだろう。

「冷たい飲み物ないのー?」
「コーヒーが嫌なら水に氷入れて飲ンどけ」
「うぅ……」

期待してなかったけどさぁ、とみょうじは項垂れソファーに沈んだ。
一方通行はその様子を半眼で眺めていた。
しかしなにやら良くない考えが浮かんだらしくニヤリとした笑みを浮かべる。

「おなまえ、」
「な」
に?と言い終わらぬうちに一方通行のよからぬ企みに気付き、彼から離れようとする。
しかし一方通行はグラスのコーヒーを口に含みみょうじの唇に押し当てた。

「ん……ん゛ー!」

みょうじの声にならない悲鳴が響く。
一方通行の口内から苦い液体が移ってきたのだ。
みょうじは逃れようとするが、後頭部に手があてがわれなすすべもない。
ぼたた、と二人の唇から漏れた水滴がはしたなくも服を濡らす。
やがて互いの唇が離れ、口端からコーヒーが垂れた。
それを一方通行はいやらしくは思ったがそれよりも

「にっが…!」

と悶えているみょうじの表情にぞくぞくしていた。
――可愛ィっつうか……もっと苛めてェ。

「……」
「ばかー!一方通行にはしばらく近寄らな……」

顔を上げたみょうじが見たものは。
グラス片手に自分の鼻を摘まもうとしている一方通行の姿だった。
「え、ちょ。なん……?」
「水分補給はしておかなきゃなァ?」
「みぎゃああああああ」




5分後、ソファには拗ねてるみょうじの姿があった。
背もたれの方を向いて横になっており、一方通行とは目線を合わそうとはしない。

「一方通行ってさ、Sだよね」
「……ハイ」
「私、Mじゃないんだよ」
「……(そォかァ?)」
「あんまり人の嫌がることしたら嫌いになっちゃうよ」

その言葉に一方通行はびくりと身体を震わせる。

「……っ、悪かった」
「堪える?ねぇねぇ嫌われたくない?」

みょうじはわざと苛立ちを誘う口ぶりで煽る。
一方通行はギリリと歯を軋ませる。

「テメェ……あンま調子乗ンなよ…!」
「私に嫌われても平気?」
「平気、じゃねェけどよォ。性質悪ィだろ」

素直な一方通行の言葉にみょうじは笑ってこちらを向いた。
もうすっかり機嫌は直っていたようだった。

「恋人同士の仲直りの仕方って知ってる?」
「知らねェ」
「仲直りのキスってやつだよ」

と、みょうじ唇をトントンと指差した。
一方通行は息を吐いた。
彼女の機嫌を取るためだ。
さっさと覚悟を決めてしまい、目を閉じる彼女に覆い被さるようにしてキスをしてやった。
唇が離れるとみょうじは渋い顔をしていた。

「……苦い」
「アホだな」




end
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