短編

□拍手
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A嫉妬 -B side-
※名前変換有り


昨日からおなまえの様子がおかしい。

「なァ、」
「あーそろそろご飯作らなきゃ!」

――俺、避けられてねェ?

話しかけると逃げられる。
飯食ってる時も全く目を合わせようとしない。
一緒に暮らしている分居心地が悪くて仕方がない。
内心、落ち込む。
正直、堪える。
何かしただろうか。
一昨日の夜はいつも通りだった。
昨日の朝、俺は寝ていたが帰ってきた時既にこの態度になっていた。

――学校で友達に何か言われたか……?

自分では原因が思いつかず、要因は他にあるとしか思えなかった。



「お醤油切らしてたから買ってくるね」

買い物に行くという同居人にすかさず答える。

「俺も行く」
「へっ?いや、一方通行が行きたいなら買ってきて貰いたいな〜なんて」
「俺じゃ使ってる銘柄わからねェ。お前も来い」
「それなら私一人でいいし……」
「話あンだよ。来い」
「……ハイ」

強引だが話をする機会を作ることに成功した。
ドアに鍵を掛けアパートの階段を降りていく。
その間、無言。
日は傾きかけ橙色に近い色へと染まっていた。

「なァ、最近どォしたンだよ」

早速話を切り出すと彼女は激しく狼狽した。

「ふぁ!?な、何が?」

――しらばっくれるには無理があるだろ……。

あまりに露骨な反応に、一方通行は半眼でおなまえを見る。

「俺のこと避けてるだろ、オマエ」
「避けてるわけじゃなくて、気まずいというか……」
「俺が何か余計なコトでもしたかよ」
「してないよ!」
「じゃあ何で」
「ええと、」

おなまえは目を泳がせ、雑踏の中に何かを見つけたように言う。

「あ、今の人一一(ひとつい)はじ…………」

そう言いかけた彼女は何かを思い出したように固まった。
顔色を悪くし額には冷や汗をかいている。

「……、…………」
「何だ?」
「い、いや、なんでもない」

ぎこちなく歩を進める彼女の頬は朱に染まっていた。
嫌われてはいないようだが、原因はわからないままだ。

「……オマエ一一(ひとつい)みたいなのが好きなのか?」
「はっ?!いやいやいや。一一(ひとつい)君は友達が好きなだけで……芸能人は観賞用っていうか……」

彼女は言い訳をするようにブツブツ呟いている。

「なァに赤くなってンだァ?」
「赤くない!気のせいだからー」
「……ったく、そんなにアイツが好きかよ」

一方通行のぼそりと呟いた言葉が、彼女の耳にも微かに届いた。
何故かはわからない。
しかし彼女はその誤解だけは解いておきたいと思った。

「違うよ……」

じっと一方通行を見つめると彼がこちらに気づき、久しぶりに目が合う。
血を透かした、赤色と。
その途端分かりやすいほどに、彼女の顔が再び赤く染まっていった。

「……どォした?」

おなまえはハッとして視線を下へそらす。

「最近様子がおかしいって言ったよね」
「あァ」
「この前、変な夢見ちゃって」
「……は?」

思わぬ言葉に間抜けな声が出た。

「ちょっと、妙にあなたを意識しちゃっただけだから気にしないで」
「……どんな夢だ?」
「もうこの話はおわり!ね!」

おなまえは叫ぶように言うと早歩きで進み出す。
斜め後ろから見えるその耳は赤い。
一方通行はしばらくの間思考停止していたが、やがて騒ぎ出した自らの心音に気づいた。

――妙に意識、ねェ。これ以上の追及は勘弁してやるか。

……忙しない心音に免じて。
夢の内容は気になったが、気を長く持つことにした。
長期戦は覚悟している。
一方通行は彼女の隣へと歩を進めた。
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