短編

□拍手
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夢オチシリーズ
B学園ラブコメ


母の呼ぶ声に慌てて跳ね起きた。
無意識下で止めてしまっていた目覚まし時計が指示す時刻、7時40分。
5分で家を出なければ遅刻だ。
私は今までにない早さで着替え、一言だけ台所の母へ悪態をついて食パンを口にくわえた。
マーガリンだとかジャムだとかの贅沢は言っていられない。
玄関を出ると自転車に跨がりペダルをこぎ出した。
風で長いスカートがたなびいていく。
道行く通行人を尻目に学校を目指した。
が、角を曲がるところで塀から白い頭が見えた。

――お年寄り?

「むぐ!(やば)」

自転車とはいえ、若者ならまだしもお年寄りを轢くのは洒落にならない。
慌ててハンドルを切るが自転車に衝撃が走る。
遅かった。
自転車と籠に乗せた鞄が宙に投げ出される。
ついでに食パンも。
ああもう食べられない……。
朝食の残念な末路に泣きたくなった。

「す、すみません!大丈……」

――……夫ですか?
自転車から放り出され、痛む腰をさすりさすり前を見た私は言葉を飲み込んだ。
こちらは自転車だというのに何故一方的に転んでいるのだろう。
そこには老人ではなく、白髪を靡かせた少年が立っていた。
少年は艶やかな白髪に鋭い赤い瞳をしており、その眼光に心臓を貫かれてしまった。
キューピッド要らずである。
かっこいい……。
少年の姿に見とれていると低い声がかかった。

「ナニ無様なローアングルのサービス晒してンだ。この三下」

見られた。
慌ててスカートを押さえ睨み付ける。
少年は鼻で笑った。
先ほどのかっこいいなんてのは前言撤回だ。

「別にオマエのスカートの中身なンざ興味ねェから安心しろ」

そう吐き捨て白い少年は悠々と歩いて行く。
初対面でものすごく失礼なことを言われた。
ぶつかったのはこちらが悪いわけではあるが、この言われようでは謝る気になれない。
込み上げてくるのは怒りばかりだ。
擦りむいた膝が痛んだ。

「サイテー……」

そう呟かずにはいられなかった。
私は自転車を起こしながら溜め息を吐く。
今日は遅刻か。
恐らく今日はろくな一日にならない。
そんな予感がした。



朝のHRも終わった頃、先生にこってり搾られた私は教室に着いたところだった。
白い少年(と書いて失礼な白髪野郎と読む)のことは友達に愚痴ると誓う。
そう決めてガラリと扉を開くと、私の席の隣に白い少年が座っていた。
周囲には小さな人だかりができている。

「ああっ!今朝の若白髪……!」
「チッ……オマエこのクラスだったンか。ってかシラガ言うなこのアマ」

私たちのリアクションに周囲の黄色い声の乙女たちが波立つ。

「えっ!えっ!鈴科くんと知り合いなの?」
「どこで知り合ったの?どういう関係?」

この日、私の平穏な学生生活に鈴科少年という爆弾が投げ込まれた。

「関係?そォだなァ……朝っぱらから下着見せられた関k……」



PiPiPiPiPi...

「……今日はラブコメか」

なんとベタな、そう呟く。
一方通行の鈴科という苗字はどこから来たのだろうと考えていると

「遅刻したンか」

ぼそりと隣から聞こえた。
聞き違いだろうか。
彼は未だ夢の中、だ。

「まさか、ね」
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