短編

□拍手
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夢オチシリーズ
D新婚ネタ




漂う美味しそうな匂いを吸い込む。
今日はあの人に褒めてもらえるかな。
夕食が完成し一息ついたところでドアの開いた音がした。
私は彼を玄関に迎えにいく。
ドアを開けたのは大好きな一方通行。
ぎこちなく笑顔を作りお約束の台詞を言った。

「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも……」
「まずメシ。その後、フロ」

失敗だ。
照れてたら最後まで言わせて貰えなかった。
がっくりと肩を落としていると靴を脱いだ一方通行が優しい声で囁いた。

「最後にオマエ、な」
「……!」

頬に柔らかい感触があたるとともにリップ音が耳に残った。
顔がボッと熱くなる。
湯気が出たのではないかと思ったくらいだ。
一方通行は何食わぬ顔で上着を脱いでいる。
なんだかずるいような気持ちになった。
出来上がった料理を皿によそい、配膳する。
食卓についた一方通行は眉を上げた。

「ン?なンか豪華だな」
「忘れたの?今日は私たちが出会った日だよ」
「あァ……よく覚えてンな」
「大事だからね、私にとって」

寂しかった春の夜、一方通行は私の部屋を訪れてくれた。
戸惑いはあったけれど、彼は私を必要とし傍にいてくれた。

「俺も覚えちゃいるがあまり喜べねェ」
「うん……そうだね」

一方通行にとっては初めて会った私の命日でもある。
その辺りはちょっと複雑だ。

「ほら、冷めちゃう前に食べよ?」
「あァ。いた…だきます」
「いただきます」

ぎこちない食前の挨拶を微笑ましく思いながら、箸を手に取った。


......

今日は休日だ。
アラームはセットされておらず、朝の日射しが私の目を覚まさせた。

「……」

ひどい夢だ。
同居人相手に私は何という夢をみてしまったのだろう。
ガン、と壁に頭を打ち付けた。
煩かったのか、ベッドの横で一方通行が呻いている。
ガッ!
私は。
ガッ!
家族相手に。
ガッ!
何を……。

「はァ?!」

素っ頓狂な声がしたかと思うと、背後から羽交い締めにされた。

「どォした?頭がイカれたか?!」

必死に理由を私に訊ねている。
一方通行だ。
……一方通行?
その名から夢の映像、音、感触が頭に流れ込んできた。
顔が一気に熱くなる。

「うああ触らないで」
「……あ?」
「しばらく触らないで」
「……」

解放されたと同時に枕に顔を埋めた。
ちらりと見えた一方通行は傷ついたような顔をしていた。
後でフォローしてあげなければ。
心の中でごめん、と謝った。
ああ、二度とこんな夢みてはいけない。
でないと家族として見てくれている一方通行に悪い。
そんな気持ちでいっぱいだった。




end
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