短編

□拍手
7ページ/9ページ

夢オチシリーズ
E鈴科百合子




なぜこのようなことになってしまったのだろう。
事が起きたのは学校からの帰り道。
派手な人たちに道を塞がれ、後ずさっているうちに人気のない横道へと入ってしまった。
茶髪の彼らはチャラチャラと腰につけたチェーンを揺らし、下卑た笑みを浮かべている。

「ねー俺らとカラオケ行こうよ」
「楽しいからさぁ」
「大丈夫、俺たち超安全だから」

なぜ目を付けられてしまったのか。
後悔しながら言葉を紡ぐ。

「……いえ、私急いでいるので」
「ちょっとだけ、1時間でいいから」

それでは困る。
1時間はちょっとではない。
スーパーのタイムセールが終わってしまう。
私は声を張り上げた。

「もう通し――」
「なァにしてンだァ?」

男たちの背後から凄みのあるが聞こえた。
白い髪を揺らし赤い瞳で凄む少女。
性別が女であることは彼女がセーラー服を着用していることからわかる。
私の同居人、百合子だ。

「ぁあ!?」
「まーまー、ちょっとキツいけど美人じゃね?」

男たちは小声で二言話したかと思うと百合子の方を向いた。

「今この子をカラオケに誘ったところでさぁ、君もどう?」
「……」

百合子は男たちの存在をも反射しているのだろうか。
下卑た笑みをスルーし男たちの身体を弾き、私の元へ歩み寄った。

「オラ、帰ンぞ」

そう言ったかと思うと私の手を取り歩き出す。
男たちの存在などなかったかのように。

「シカトかテメェ!」

体格の良い者が怒鳴り声を上げた。
百合子の肩を掴もうとしたようだが、反射により顔を強かに壁へと打ち付けた。

「……ご、は」

異様な光景だった。
残り二人は顔を見合せ、沈黙した。

「雑魚に捕まるンじゃねェっての」
「うう……道塞がれちゃって」
「俺がいたからよかったものの、晩飯遅れるじゃねェか」
「じゃあ手伝ってね。二人なら早いよ」
「えェー」

百合子は嫌そうな声を漏らす。
ここで説得するより帰ってから無理やり手伝わせるとしよう。
ところで、と私は話題を変えた。

「転校初日の感想は?」
「あァ。なンか朝、ツンツン頭にぶつかったンだけどよォ、ソイツと同じクラスだった」
「……ベッタベタな少女漫画みたいだね」
「そォなの?読んだことナイからわかンね」
「ベタすぎて私も読んだことないよ」



PiPiPi...

「どういうことなの」

私は目覚ましを止めながら呟いた。
のそりと起き上がり、ベッドから身を乗り出した。
視線の先にあるのはラグやマットなどを敷いた床で眠る一方通行だ。
彼は眉間の皺もない可愛らしい寝顔を晒している。
暑さのせいか掛け布団から白い腹が出ていた。

「……」

胸から下半身まで一度眺めてみる。
下は、マズい。
確実性は高いが、バレたら完全に痴女だ。
とりあえず丁度出ている腹をぺたり、と触ってみた。
やわかたい。
私は困惑した。
そもそも男の人のお腹を触った記憶がないし、どのくらい柔らかい人がいるのかわからない。
腹ではよくわからない。
となると次は、胸だ。
手を伸ばし、そっと胸板に当ててみる。

「ンァ……」

見れば一方通行の目が薄く開かれていた。
寝起きで機嫌が悪いのか、ドスの効いた声で怒られてしまった。

「ナニしてンだコラ。セクハラかァ?」
「ご……ごめん。ちょっとあなたの性別が気になって」

私は愚かにも馬鹿正直に訳を話してしまった。
一方通行は一瞬驚いた後、怒鳴る声を大きくした。
悪いのは私だが、寝起きには響く。

「あァ!?見りゃわかンだろうが!」
「それは私が思ってる通りでいいの……?」

私の声を無視し一方通行は隣の台所へと向かった。
まったくやってられない、といった様子だ。

「ったく、朝から何なンだっつの」

そう言って一方通行は缶コーヒーを呷った。
ごくり、と動いた咽喉仏を見て私は納得した。
あぁ、やっぱり男の子だ、と。
その結論で安心したのは今までそう思っていたからか。
それとも――


――女の子相手にドキドキしてなくてよかった。




end
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ