短編

□レインドーム
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※一方通行は一人暮らしor暗部隠れ家住み




「ったく、雨の予報出てたじゃねェか」
「でも、約束してたし」
「連絡入れて後日でイイだろ」

冷たい一方通行の言葉に私はソファに身を沈ませた。
窓の外では強い雨風が吹きつけている。
私は一方通行の部屋へ来ていた。
特別な用事があるわけではなく、このところ会えなかったからただ会いにきただけだ。
今回の予定に残念な点があるとすれば天候が悪いことだった。
昼間は小雨だったが、夕方にはひどい豪雨となってしまった。
私はそれを覚悟で来ていたわけだが、彼は私と天候を天秤にかけると天候の方が勝ってしまうらしかった。

「私は雨を覚悟で来たのに」
「雨っつったって、この風だと傘もさせねェぞ」
「濡れて帰るもん」
「……」

一方通行は呆れた顔をした。
そればかりか、盛大に溜め息まで吐いた。

「泊まってけ。濡れるよりマシだろ」
「いいの?」
「面倒かけさせやがって」

そうは言うが、彼の照れ隠しなのだと思う。
久しぶりに会えたのだ。
お泊まりの許しを得たのはとても嬉しかった。

シャワーを借りて、一方通行のものらしいジャージを着る。
彼は男性としては華奢だが、袖や裾が余ってしまった。
このようなところで体格差を感じて感心する。



「俺はソファーで寝るからベッド行けよ」
「ありがとう」

珍しく紳士的な対応をする一方通行に感謝しつつベッドに潜り込む。
男の人の匂いは心臓を落ち着かなくさせた。
目を閉じて耳を澄ませる。
雨粒が建物を叩く音がした。
このような日、部屋を尋ねる人はおらずチャイムが鳴ることはない。
閉鎖された空間だ、と思った。
一方通行と、私の。二人だけの。


「……っ、」

雨の音に混じって何か聞こえた。
一方通行だろうか。
そっと身を起こしてソファーに様子を見に行った。
おそるおそる近付くと、一方通行は魘されていた。
毛布を握りしめて苦しげに呻き、額には脂汗を滲ませている。

「一方通行?」
「っは、ァ…………おなまえ……」

額に手を伸ばすと一方通行は薄く目を開いた。
乱れた呼吸を落ち着かせながら私の手を両手で握る。
瞼を閉じた彼は赦しを乞うような姿だった。

「大丈夫?……こっち来て寝ない?」

しばらく迷っていた様子だったが、彼はこくりと頷いた。
二人で向かい合って毛布の中へと入る。
しばらくして沈黙していた一方通行が口を開いた。
いつもの彼の面影のない弱々しい声だった。

「なンで来ねェの」
「え?」
「ずっと待ってた。オマエが来るの」

ここに来た時は雨が酷いから後日来ればいいと言っていたのに。
彼の天秤での私は重かったようだ。
あの台詞は私のことを思っての発言だったのだろう。
本当のところ、私は今日此処に来て良かったのだ。
彼は面倒臭い性格をしている。
素直になれないために本心がなかなか見えない。
一方通行だって、本当は会いたかったのだ。

「……ごめんね。試験と提出物で忙しくて。でもあなたから来ればよかったのに」
「……」
「寂しかったよ。私も」

一方通行の薄い胸板に頬を当てて擦り寄ると、背中に腕が添えられた。
そのままぎゅう、と抱き締められる。
彼が息を吐く音と少し早い鼓動が聞こえる。
一方通行の顔を見ようとすると胸板に押し付けられた。
顔を見られたくないのかもしれない。

――温かい。

篠突く雨は尚も勢いを増して降っている。
遠くで雷鳴が聞こえた。




end

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