短編

□きみをあいしてもいいですか
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※注意!一方通行が相当臆病でヘタレてます。




クーラーの効いた部屋での昼寝は気持ち良い。
少し涼しいくらいの部屋で毛布に包まり眠るのだ。
でも唇に当たる柔らかいものはなに?

「……ふ…………?」

驚きで息が漏れた。
唇の違和感に目を開くと目を閉じた一方通行がいた。
先ほどから唇に押し当てられていたのは、彼の薄い唇。
白い睫が震え、赤い瞳と目が合う。
眼前の瞳が驚きと悲嘆に揺れた。

「……っ、」

一方通行は慌てて私から離れた。
私はというと口元に手を当て彼を見つめるだけ。
こういう時、どう反応したらいいかわからない。

「悪かった」

彼はそう言い残し、部屋から走り去ってしまった。
重いドアの閉まる音が虚しく響く。
一方通行は何故キスをしたのか。
一方的に謝るだけでは何と言っていいかわからない。
私は熱くなる頬を両手で押さえて冷ますように努めた。



眠るおなまえに、キスをしてしまった。
無防備に眠るおなまえが可愛くて、いとおしかったから。
桃色に色づいた唇が柔らかそうだったから。
どうせ叶わぬ想いなら、と彼女にバレないように唇を押し当てた。
何度目かのことだった。
唇が重なる間、満たされているのを感じた。
……でももうバレた。もう駄目だ。
おなまえに嫌われる。嫌われた。
自分でも馬鹿なことをしたと思う。
あの色素の薄い唇で拒絶の言葉を告げられるのは耐えられない。
謝るだけして、俺は逃げた。
臆病者だ、俺は。



あれから彼が私の部屋に来ることはなくなった。
指で唇を触れながら思う。
あの感触が忘れられない。
彼の気持ちはわからないが、私はキスをされて嫌ではなかった。
彼に片想いをしていたのだ。
一人戦う彼の支えになりたいと、常日頃思っていた。
正直、嬉しかった。
でも、ちょっとした出来心だったのだと思うと怖い。

――好きなのは私だけなのかな。

あの時のベッドの上、私は溜め息を吐いた。



――おなまえに会いたい。
俺は一人溜め息を吐く。
会えなくなった原因を作ったのは自分だというのに。
馬鹿なことをした。
何度目の後悔だろう。
手を出さずにいれば、キスさえしなければ、まだアイツの隣にいられたというのに。
クソガキにまで元気がないね、と心配をかけて何をやっているんだ俺は。
おなまえと顔を合わせることを恐れながら、偶然出会うことを期待しているのだろう。
着いた先はおなまえのアパート近くのコンビニだ。
再度溜め息を吐く。

――何やってンだ、俺。



―― 一方通行、どうしてるかな。

おやつを買いにコンビニに行った。
そのついでに見たのは飲料コーナーだった。
一方通行の影響もあり、ふとコーヒーを飲みたくなったのだ。
銘柄を一本選んだところで、会いたかった一方通行と目が合った。
立ち尽くす彼の、相変わらずの姿に目元が緩む。
彼は茫然としていたが、すぐに背を向け歩き出した。

――え、気づかなかったふり……?

それはないでしょう!
私は慌てて彼の筋ばった腕を掴む。

「……ァ、ゥ…………」

私の知る一方通行はそこにいなかった。
彼は情けない顔をしていた。
声にならない声をだし、眉は下がり瞳は潤んでいる。
怖がられてしまったのだろうか。
折角仲良くなれたのに。
私は密かにショックを受けた。

「……私のこと怖い?」

私たちは会計を済ませ近くの公園へと移動した。
問いかけに彼は違う、と首を振る。
一方通行はベンチにいるというのに膝を抱え、そこに顔を埋めていた。

「オマエに……嫌われンのが、怖ェ」

ようやく彼が放った台詞は涙声だった。

「勝手にキス、して……悪かった」
「私は」

口を開くと顔を埋めたままの身体がびくりと震えた。
情けない表情も挙動も何もかも、私に嫌われることを恐れてのことだと知ると彼がいとおしく思える。
それほどまでに……私のことを?
私は精一杯優しい声色になるよう努めた。

「私は、嬉しかったよ。一方通行にキスされて」

一方通行が顔を上げた。
彼の瞳には涙の膜が張っていた。

「……ほんとォか?」
「うん」
「嫌わないで、傍にいてくれンのか?」
「うん」
「……悪ィ。順番、狂っちまったけど、おなまえ……」
「うん、なぁに?」

一方通行は一呼吸置いた。
微笑んで彼の言葉を待った。

「……オマエが、好きだ」

震える声が、私の心に浸透した。



「私も好きだよ、一方通行」

おなまえのその言葉に全身が歓喜にうち震えた。
彼女を抱きしめ、未だに震える声で告げる。

「おなまえ、好きだ。好きだ。好きなンだ」
「私も好きだよ」

生まれて初めて嬉しさに泣いた。
自分を好きになってくれる人がいた。
その事実がどうしようもなく嬉しくて、何度言ったところで言い足りない。
おなまえは一つ一つの「好き」に頷き言葉を返してくれた。
この存在に一生分の愛を捧げたいと思った。

「おなまえ……」
「うん?」
「ありがとォな」

好きになってくれて。
耳元でそう囁くとおなまえは笑って頭を撫でた。

「それはお互い様だよ。ありがとう」




end...tittle by ロメア

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