短編

□どうしても聴きたかった
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※一方さん遠征中




一方通行は滞在先のホテルにいた。
スプリングの効いたベッドに腰掛け、無骨な携帯に目を落とす。
おなまえに会わずそろそろ一月になる。
極力、こちらから電話を掛けることは避けたかったのだが。
自分がこれほど女々しいとは思わなかった。
彼は溜め息をついた。
目蓋を閉じ愛しい少女の姿を思い描く。
記憶の中の彼女はいつだって笑いかけてくれた。

「おなまえ……」

彼女の名前を音に乗せる。
それは甘く響き、胸を締め付けるような切なさを残した。
会いたい。
おなまえに会いたい。
会ってあの笑顔に癒されたい。
でももう暫くは会えないから、せめて声だけでも……聞きたい。
一方通行はそっと通話ボタンを押した。
5つほどコールが鳴った後、懐かしい声が聞こえた。

「もしもし」

愛しい人の声に一方通行は内震えた。
胸が温かくなってくる。
ずっと、これが聞きたかった。

「よォ……」
「一方通行?」
「あァ。喋れ、なンでもイイから」

とにかくおなまえの声が聞きたい。
一方通行は単刀直入に要求した。

「なァ……頼む」
「どうかしたの?」
「……」
「何かあったの?」

電話口のおなまえは自分を心配しているようだった。
悪気はないのだろうが、詮索して欲しくない彼は苦虫を噛み潰した。

「別にナニもねェよ」
「ならどうして……」
「悪ィかよ。用もないのに連絡して」
「……ふっ」

おなまえが笑いを堪える息を漏らした。

「笑ってンな」
「あなたって用件もなく連絡とるタイプに見えないから」

一方通行は舌打ちをした。
笑い声は未だ受話器越しに聞こえてくる。

「ごめんごめん、電話してくれて嬉しいよ」
「そンなに面白かったかァ?」
「拗ねないでよ」
「拗ねてねェ」
「……いつ、戻って来れるの」
「多分、来月だろォな」
「そっかぁ。早く会いたいね」
「あァ……」
「一方通行にしては素直だね」

おなまえは意外そうな声を上げた。
先程からおなまえはこちらを詮索してくる。
心配、されているのだろうか。

「そォか」
「そうだよ。もしかして結構参っちゃった?」

図星だ。
一方通行は沈黙をもって答えた。

「帰ったら抱き締めたげよっか?」
「……む」
「何か言った?」
「頼む」

言ってしまってから、しまったと思った。
一瞬、おなまえが絶句したようだった。

「……これは、相当かもね」
「……」
「ほんと大丈夫?次会ったら沢山甘やかしてあげるよ」
「あァもォ……わかったから。切るぞ」
「そっか、待ってるよ。おやすみ」
「……オヤスミ」

通話を切り、携帯を閉じる。
一方通行は頭を抱え、ガシガシを掻いた。
思わず本音が出てしまった。
おなまえと話しているとどうにも甘えたくなってしまう。
次、どンな顔して会えってンだよ。
ホテルのベッドに突っ伏す。
横に転がる自身の携帯を眺め、それでも電話してよかったと思うのだった。




to be continued...

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