短編

□Nov.11th
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季節はすっかり秋だ。
街路樹は紅葉し吹く風は冷たい。
纏う服の枚数は日を追うごとに増えてきた。
そんなある日、一方通行は珍しく私の部屋を訪れた。
いつもは私が黄泉川先生の家に行くことが多いのだが、何か用があるのだろうか。
一方通行はビニル袋をぶら下げ部屋へと入った。
インスタントコーヒーを入れてあげ、一息すると彼は切り出した。

「なァおなまえ、今日なンの日か知ってっか?」
「磁気の日?」
「……。何だそのマニアックな記念日は」
「さっきニュースで見たんだけど、11月11日って記念日が多い日みたいだよ。1が並ぶだけあるよね」
「……俺が言いたいのはよォ、多分もっとポピュラーだと思うンだが」
「……というと?」

定番のお菓子が思い当たった。
甘いものは大好きだ。
期待に胸が高鳴った。

「ン」

一方通行はビニル袋からスティック状のチョコレート菓子を取り出した。
私は歓声を上げる。

「やった!食べていいの?」
「おォ。食べ方は指定すっけどな」
「……食べ方?……んっ」

閉じた口に菓子が突っ込まれた。
このまま食べていいのかな。
一方通行の様子を伺おうとして、口が開きそうになった。
開いたら落としてしまうので閉じたままだったが。
菓子のもう一端を一方通行がくわえていたのだ。
ハッと脳内の片隅にあった知識を思い起こす。
これはいわゆる……合コンの奥義と聞くゲームだったか。
確か口を離したら負けだった筈だ。
一方通行は赤い瞳でじっと見つめながら食べ進んでいく。
一口だけ、かじってみる。
一方通行との距離が少し、近づいた。
少しとはいえこの菓子はさほど長くない。
つまりスタートの時点で既に近い距離から始まる。
一方通行の視線にどうしてもドギマギしてしまう。
む、無理だ……こちらからは食べられない。
サク、サク……。
一方通行はもう鼻の先まで来ていた。
私は目をぎゅっと瞑った。
唇が触れ、柔らかい感触が伝わった。
触れるだけキスだが、しばらくそうしていた。
唇が離れると、一方通行が笑い声を溢した。

「っは、そろそろ慣れたらどォた?始めた時から目ェ白黒させてたぜ」

ぼっ、と顔が熱くなる。

「一方通行が凝視するからだよ!そんなに見られたら照れるしかないよ」
「……へェ?」

弧を描いた瞳はまた、私を追いかける。
もう目を合わさないことにする。

「……わざとでしょ」
「別にィ?コミュニケーションを取る上で目ェ合わすのくらい普通だろ?」
「もう……私から攻めたら弱いくせに」
「……あァ?」
「キスする口実があるからわざわざ来てくれるなんて一方通行は可愛いよねぇ」
「は?文句あンのかよ……」

私はテーブルに置かれた菓子箱から一本取り出した。
それを一方通行にくわえさせ、笑う。

「うん。攻守交代だよ」
「おもひれェ」
「……格好ついてないよ」

そして菓子の端をくわえた。




end

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