短編

□独り身に祝福を
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「これやる」

目を丸くしているみょうじに一方通行はぶっきらぼうに手渡した。
彼女の掌に乗せられたものはこの季節コンビニに売ってある、ホワイトデー用のクッキーだった。

「これって……」
「義理だからな!勘違いすンじゃねェぞ」

上目遣いで期待の眼差しを向けるに一方通行は声を張り上げる。
これはただの、お返しなのだ。
チョコレートを貰った、単なるお礼。

2月14日に出会って丁度一か月。まだ本命をあげるような仲じゃない。
自分の気持ちもよくわからない。
それなのにみょうじに期待を持たせ、喜ばせるわけにはいかなかった。
だがみょうじは一方通行の思惑とは裏腹に喜んでいた。
目を輝かせながらクッキーの入った箱を空に掲げている。

「やっぱりホワイトデーのお返しなんだ……!ありがとう!」
「……別に。貰いっぱなしってのもなンだと思ったンだよ」
それでも嬉しいのか、適当に手に取った菓子だけでここまで嬉しいものなのか。
彼女は感極まったように肩口にぐりぐりと顔を埋めた。
「やっぱり大好きです……!」
「……っ、わかったから、ひっつくな」

そンなモンでイイのかよ。
コンビニで適当に選んだ菓子なんかで。
些細なものではしゃいでしまう彼女をもっと喜ばせたくなる。

「なンか、他に欲しいモンとかあるのか」

気が付けば口に出していた。

「えっ……なんかって?」
「別に大した意味じゃねェよ。オマエなら服でも指輪でも、それが安物だろォ馬鹿みてェに喜ぶンだろォなって。あげる甲斐がある奴だよ」
「一方通行さんがくれたからですよ」
「俺が?」
「好きな人から貰ったものはなんだって嬉しいものです」

まだ彼女は自分で好きでいるのだと、一方通行は改めて実感した。

「それで何かくれるんですか?」
「……あげてもイイなァって思った」
「私が欲しいのは服でも指輪でもない、一方通行さんですよ」

そう言って照れ臭そうにみょうじは笑った。
返答を待つように黒く澄んだ瞳がこちらを見つめている。
顔が熱くなった。
自分は彼女のことを好きなのかと考える。
きっと、最初会った時から気に入っていたのだと思う。
歩む足を止めると、みょうじは不思議そうな顔をした。
寒さで少し赤くなった頬に口付ける。
唇の音を残して顔を離すと驚いたように彼女はこちらを見た。

「…………っ!」
「これで、イイか?」
「あ、一方通行さん……」
「ン?」
「私、期待していいんですよね?」

「……そォだな、オマエのこと気に入ってるみてェ」





end
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