短編

□chocolate, xx
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「一方通行、甘いもの好き?」
「別に好きじゃねェなァ」
「えぇー」

思えばこれが一週間前のやりとりだった。




2月14日、一方通行はソファに身を埋めていた。
世間ではバレンタインデーである。
彼は少なからず期待していた。
今年は仮にも恋人であるみょうじから本命チョコレートを貰えるかもしれないと。
だが夕方になってもみょうじが、来ない。
一方通行は静かに目を閉じる。

――貰えると、思ってたンだがなァ。

甘いものは好きじゃない。
そう言ったのが間違いだったんだろうか。
別に、嫌いというわけではないけれど。
一方通行は大きな溜息を吐いた。
自分なんかが本命チョコレートを望むのはおこがましかったのだろうか。

やがて陽が落ちた頃、インターホンが鳴った。
今この部屋には誰もいない。
黄泉川は仕事でまだ遅くなるし、芳川と打ち止めは調整でまだ掛かりそうだ。
宅急便だろうか。
気だるそうに起き上がり、ドアを開けると彼は目を丸くした。
みょうじが申し訳なさそうに立っている。

「ごめんね。遅くなって」
「いや、寒ィだろ。入れよ」

リビングに招き、お茶を淹れてやる。
みょうじは礼を言い、冷ますようにカップに息を吹きかけた。

「あったかー」
「外寒かったろ」
「うん、でも今日は来なくっちゃね」

そう言ってみょうじは紙袋からラッピングパックを取り出した。

「何回かね、甘くならないように作ってはみたんだけど、結局コーヒービーンズチョコにしてみたんだ。貰ってくれる?」

不安げに上目遣いで見つめられ、一方通行の咽喉がごくりと鳴った。
自分の何気ない一言のせいでみょうじは苦労して作って来たようだ。

「貰わねェわけ、ねェだろ。オマエがせっかく作ったってのに」
「よかった」
「今食うぞ」
「どうぞ、お口に合えばいいけど」

綺麗に結ばれたリボンを解き、袋を開ける。
チョコレートを摘まんで口に放り込んだ。
中のコーヒー豆が香ばしい。

「ン……甘ェな」
「ええ?ダメ?」

みょうじが落胆したような顔を浮かべた。
その大げさな様子に一方通行は内心苦笑する。
自分の何気ない一言で一喜一憂する恋人が可愛くて仕方ない。

「安心しろ。甘いのは好きじゃねェと言ったが、嫌いでもねェンだよ」
「ええーっそうなの?もしかして私、作り損?」
「練習になったじゃねェか」
「うう……家にまだあるから責任取って食べてくれる?」
「……。明日以降なら」

また一粒、一方通行は口に含んだ。
そしてみょうじと距離を詰めてそっと唇を触れさせる。
舌を差しいれ溶けかけたチョコレートを押しやった。
みょうじは驚いたように目を瞬かせている。
その様子が可愛くて一方通行は目を細めた。

「甘ェだろ?」
「ん……」

口いっぱいに広がる甘みにみょうじはこくりと頷く。
その時、居間のドアが開いた。
一方通行はビクリと身体を震わせる。

「……!!オマエら…………!」
「ああーっ!ってミサカはミサカはデレデレなあの人を大発見!」
「ハァ。そういうのは自室でやってちょうだい。あなたが恋人に素直になれるのには安心したけれど、目に毒だわ」
「いつも帰ったらドスドス騒がしィクセに足音忍ばせてやがったな!?」
「言いがかりはやめなさいね。人のイチャついてる姿なんか見たい筈ないじゃない」
「そうだそうだー!ってミサカはミサカは実は寝てるかもしれないあなたに配慮してたんだって上手い事言い訳を考えてみる!」
「おいクソガキ、今言い訳っつったのはどォいうことだよ!」

一方通行は声を荒げた。
騒がしくなった恋人を余所に、みょうじは帰り仕度を始める。
恥ずかしくってこの場にはいられないのだ。
恋人たちのイベントは仕切り直しだ。
一方通行の方を叩き、小声で囁いた。

「一方通行、明日家で待ってるね」
「あ?お……おォ。待て、送る。オマエら帰ってきたらタダじゃおかねェぞ!」

一方通行は慌ててみょうじの後を追いかける。
二人が去った居間で芳川は肩を竦めた。

「まぁ幸せそうで何よりってとこかしらね」




end

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