短編

□鎖で繋いだ恋のかたち
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知らない男と楽しそうに笑うおなまえを見た。
俺にはおなまえしかいないのに、彼女には知り合いが沢山いる。
俺が一人おなまえのことを想っている間、彼女は何を想っているのだろう。
俺の世界にはおなまえしかいないのに、彼女の世界は広かった。
手に入れたと思っていた。
俺だけのおなまえなのだと思っていた。
でもそれは違う。
家族、友達、誰もと彼女は仲が良くて、どんなに欲しても彼女が俺だけに目を向けることはない。
これではいつか誰かにとられてしまう。
満たされぬ独占欲にオカシクなってしまう。


部屋を訪れたおなまえに問いかける。

「さっきの男は誰だ」
「クラスメイトだよ。偶然会ったの」

なに、ヤキモチ?
そう彼女は悪戯っぽく笑った。
あァそォなンだろォな。
その言葉の代わりに短く呟いた。
武骨な黒い銃を握って。



「悪ィ」



低い声と共にカチャリ、と無機質な音がした。
私のこめかみに無骨な銃があてがわれたのだ。
私は黙って声の主、一方通行を見つめた。

「オマエが誰かのものになるのが耐えられねェ」

彼の赤い瞳は不思議な感情を湛えていた。
穏やかで、不安定で、微かな悲しみを湛えた色。
それなのにどこか幸せそうに満ち足りた表情だった。
一方通行は目を細めてわたしの頬を撫ぜる。
それは優しく、慈しむように。

「何故わたしが誰かのものになるの?」
「オマエだって、いつかは誰か、他の男を選ぶだろ」

苦しげに告げた彼の目は曇っていた。
そうかしら、わたしは首を傾げる。
他の人など眼中にないというのに。

「あなたのことがこんなに好きでも?」
「わかンねェだろ。オマエの好きってのは俺とは違ェ」

違う?何を思ってそう言っているのだろう。
明らかに一方通行は私の好きを勘違いしている。
わたしは一方通行の頬に口付けた。
軽いリップ音が鼓膜を叩く。

「わたしの気持ちを臆測で判断しないで」

目の前の男を軽く睨み付け、薄い唇にも口付けた。
ちゅ、と可愛らしい音と共に顔を離すと一方通行は惚けた顔をしていた。
重い銃の落ちた音がした。
男の顔が歪む。
頬を赤く染め、ぱくぱくを口を開いて、閉じるのを繰り返していた。
間抜けな男の顔に口端が吊り上がるのを感じた。

「…………っ」
「あなたって自分の気持ちで頭がいっぱいなのね」

一方通行は未だ言葉が出ないようだ。
わたしは一つ吐き捨てた。

「鈍感」
「……悪かった」
「指輪って鎖で繋いでもわたしは喜んで繋がれているのに」

これはおねだりになってしまったかもしれない。
そんなつもりはなかったのだけれど。
私はじっと一方通行の赤い瞳を見据えた。

「殺すのがあなたを裏切った時でも遅くはないと思うけれど?」

――もちろん、逆の可能性も考えておいてね。

そう囁いて一方通行の頬を撫でる。
一方通行はわたしを腕の中に閉じ込めるよう抱きしめた。
頬を撫でた手がチョーカーを触ったのに、彼は気付いていない。




end

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