短編

□ごめんねdarling
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夕食を終え、一方通行とソファでテレビを見ていると、今日の日付に気が付いた。
今日は4月1日、エイプリルフールだ。
嘘をついたって許される日。
それなのにたった今それに気づいた私は、まだ何も嘘をついていなかった。
このまま1日を終えてしまうのは、なんだか勿体ない気分だ。

「一方通行」
「……なンだ」

ええと。しまった、吐く嘘が出てこない。
嘘をつかなきゃ。
普段思っていることと、反対のこと。
焦った私は冗談でも言ってはいけない部類の嘘をついてしまった。

「キライ」
「……っ」

一方通行は目を見開いたままだ。
しまった。これは傷ついている人の顔だ。
悪質な嘘、ネタばらしをしてあげなくては信じてる彼が気の毒だ。

「嘘だよ、今日4月1日でしょ?だから……」
「……知ってるし」

そう返事をした彼の声は震えている。
俯いてしまい、白い髪で覆われた表情は読み取れない。

「ごめん、ごめんなさい一方通行。まさかあなたがまんまと騙されるとは……」
「……騙されてねェし」

絞り出された声は嗚咽混じりだった。

「俺だってな、オマエがいなくても平気だし、嫌われた、ところでっ、なンとも……ないンだよ」

その声色から私は先程の嘘を心底後悔した。
嘘とはいえ、言っちゃいけなかった。
一方通行を傷つけてしまった。

「ごめん。嘘、大好きだよ」

こちらを非難がましく、しかし試すように見つめる赤い瞳が露わになる。

「もっと言え。ンで、キスして、もっと抱きしめてくれたら許してやってもいい」
「……わかったよ」
「悪ィのはオマエだろ。言っちゃいけねぇ嘘なンだよ……ソレ」
「ごめんなさい」
「ンで金輪際、き、らいとか……言わないでくれ」

再び一方通行は俯いてしまった。
絞り出されるような声だった。
男性にしては華奢な肩が、わずかに震えていた。
先程の彼のご希望通り、「キライ」というのは嘘だと、もっとわからせなければ。
彼はすっかり意気消沈している。
俯いた白い頭をそっと抱き寄せ、優しくささやく。

「好き、好きだよ」
「ほンとに?」
「ほんと」
「ほンとか?」
「ほんとう。だいすき。あいしてるよ」
「…………おれも……っ」

白い髪を優しく撫でる。嗚咽が聞こえた。

「すき、ずっとすきだよ」
「…………うン」

ごめんなさい、一方通行。




end

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