中編

□うさぎがにひき
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ここ最近似たような夢を見る。
女が俺にしがみついて眠る夢だ。
ある時は正面から抱きしめるようにして女は眠った。
ある時は背中をくっつけて。
それは段々と俺にのしかかるようになり最終的には女の背中に敷かれていた。
寝ているうちにベッドの下に落とされることもあった。
一連の夢に共通して俺は動くことができない。
顔の向きすら自分の意思で動かせず、長いこと白い壁を眺め続けたこともあった。

その晩、女は泣いていた。
泣く彼女を前に、何もすることができない。
真っ白になった頭で(外見のことではない)泣くな、と言うこともガラではないが慰めることもできなかった。
ただただ困り果てるだけだ。



居間でぼうっとテレビを見ていると、打ち止めが近寄ってきた。

「最近いつも眠そうだねってミサカはミサカは話しかけてみる」
「あァ。最近寝つき悪ィンだよ」
「大丈夫?ってミサカはミサカは心配してみたり」
「大したことねェから心配すンな」

心配させたお詫びにと、小さな頭を撫でる。
打ち止めは嬉しそうに目を細めた。



夕方、コーヒーを買いにコンビニに行くとどうも見覚えのある顔を見た。
あのコンビニ店員、どこかで見たような気がする。
店を出る前に一度振り替えってレジの応対をしている彼女を見た。
どこかで見た、それは確実だった。
しかしどこかは判らない。



その晩、また女は泣いていた。
俺の頭に顔を埋めるようにして、涙を溢す。
そして顔を上げ俺の顔を見た一瞬、昼間のわだかまりが溶けて消えた。
バイト中とは違い髪を下ろしていたが、コンビニの店員だった。
女は泣きながらふっと微笑み、鼻でキスをした。

――なンだ……?励まされた……のか?

女の心情の変化も困惑する材料としかならない。
俺は夢で、困っているのだ。
百歩譲って一緒に寝るのはいいとする。
気にしないことで意識を飛ばすことが可能だからだ。
だが泣かれたら気になって仕方がない。
涙を止めたくて仕方がない。
泣くな、と言いたくて仕方がない。
女が夢だけの存在でないとわかった今、それを伝えることは可能であった。
しかし女にとって俺は見ず知らずの存在なのではないだろうか。
おそらく女からしてみれば自分がこの姿でいるわけではない。
見知った存在と寝ているだけなのだろう。
彼女は一方的に見ているだけであって俺を知るわけではない。
知っているとしてバイト先の常連客程度だ。
何か言いに言ったところで警戒されるがオチだろう。
おそらく夢の内容も信じて貰えない。

――……チッ。どォしろってンだ。




翌日、女の担当するレジでコーヒーを買った。
彼女は変わらない営業スマイルで礼を言う。

――笑うな、無理して笑うンじゃねェよ。

その日の夢でも彼女は泣いていた。

我慢の限界なのかもしれない。
いつものようにコーヒーを買った後、女がバイトを終えるのを待つことにした。


私服姿で店を出た彼女は自分を見て一瞬、息を呑んだようだった。
そりゃあ白い怪人が自分を待ち伏せてたら恐れもするかと自嘲した。

「よォ。少し話がある」




To be continued...
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