中編

□うさぎがにひき
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『毎晩毎晩泣いてンじゃねェよ。
何があったか知らねェが、さっさと解決するなり相談するなりしろ。
こっちは目覚めが悪くて困ってンだ』

白い怪人はそう言った。
なぜ私が泣いていると知っているのだろう。
私は怖さに足がすくんでいたが、怪人は言いたいことだけ言うと去ってしまった。




みょうじは学校の体育担当であり「警備員」に所属している黄泉川先生に相談することにした。

「バイト帰りに、待ち伏せ……ねぇ。怖い奴だったんじゃん?」
「はい。目は凄みがあって赤いし、なんか髪やら肌やら真っ白で……」

――そんな奴一人しかいないじゃんよ……。

黄泉川は頭を抱えたくなった。

「……それ同居人の一人じゃんよ」
「えぇ!黄泉川先生のですか?」

黄泉川はあいつ何をしてるじゃん、と額に手を当て考える。

「見た目ほど悪い奴じゃないじゃん。こっちから話聞いてみるじゃん」

みょうじは手を頬に当て瞳を伏せた。
その様子は心配げで、自分が警備員に相談したことで一方通行を怒らせてしまうことを危惧していた。

「あ、あんまり刺激しないで下さいね」
「心配しなくてもアイツは大丈夫じゃん」




夜、黄泉川と一方通行は居間でくつろいでいた。
芳川と打ち止めが自室に戻ったのを見計らい、一方通行に切り出した。

「お前がストーカー気質だとは知らなかったじゃん」
「……オマエのとこの生徒だったか」
「ストーカーを認めるじゃん?」
「違ェよ……」

まさか黄泉川に知られるとは思わなかった。
夢の内容を何と言ったらいいか、一方通行は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「何故あの子を待ち伏せたか、聞かせてもらおうか」
「……」
「……まさか、一目惚」
「違ェよ馬鹿!」

怒鳴り付けると打ち止めが起きちゃうじゃん、と言われてしまった。
ごもっともな注意に何も言い返すことができない。
忌々しげに舌打ちをする。

「言えないことか?」
「……。……アイツ、たぶん毎晩泣いてンだよ」
「何故わかる?おまえが毎晩部屋から出てないのを私は知ってるじゃん」

「……」

黙っているとそれ以上詮索されなかった。

「………わかった、おまえはどうしたいんじゃん?」
「……アイツの話、聞いてやってくれよ」

俺では、怖がらせてしまう。
悩みがあるのなら。
なんとかできるのなら。
黄泉川か、その学校で解決してもらった方がいいだろう。
胸のどこかに寂しいものがあったが、それがアイツの為だと言い聞かせた。
しかし黄泉川はそれでもいいけど、と言葉を切り出す。

「私の方から誤解を解いておくじゃん。できれば教員より同じ世代の子で話してみて欲しいじゃん」




翌日昼休み、みょうじは昼食を食べようと友達と机をくっつけていた。

「最近おなまえ、元気ないんじゃない?」
「えっ、そうかな」
「大丈夫?」

知らないふりをするみょうじを、友達が眉を寄せながら見つめた時だった。
聞き慣れた快活な声で名前を呼ばれる。
廊下を見ると黄泉川が立っていた。

「ごめん、ごはん先食べてて」

そう友人に告げるとみょうじは足早に黄泉川の方へ向かった。

「あいつの話を聞いてきたじゃん」
「ど、どうでしたか」
「あいつはみょうじを心配してるようだ」
「………え?」
「毎晩泣いてるんだって言ってたじゃん」

みょうじは昨晩、彼が言っていたことを思い出した。

――なぜ、知っているんだろう。

「それが本当で悩みがあるなら、あいつでも、友達でも、私でも他の教員でもいい。話してた方がいいと思うじゃん」
「……」
「あんまり怖がらないでやって欲しいじゃん」

暫しの沈黙の末にみょうじは言う。

「わかりました。ありがとうございます、黄泉川先生」
「大したことはしてないじゃん。また何かあったら言うといいじゃん」

そう言うと黄泉川は踵を返し長い廊下を歩いていった。
友人のところへと戻りながら、みょうじは思う。

――少なくとも、ちゃんと彼の話を聞く必要がある。

その後で、話してみるのもいいかもしれない。




To be continued...
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