中編

□孤独の処方箋
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※吸血鬼パロ&主従もの。
ここの吸血鬼は不老不死です。
舞台は現代に近い。
5話でグロテスクな描写有ります。






奴隷だった私に買い手がついたのは月の綺麗な晩のことだ。
空気の淀んだ奴隷市場。
そこで私は灰色の雑踏を空虚に見つめていた。
その中で黒いローブを来た人の赤い瞳と目が合う。
その美しい色に、初めて視界に色が与えられたように思った。
目を奪われたのだ。
その人は人買いに金を渡すと、私の首輪に繋がれた鎖を引いた。
勿論転びたくはないのでご主人様に従って歩を進める。
重い首輪と足枷は歩くたび音を立てる。
しかし私の足取りはさほど重くない。
今まで以上の暮らしを期待しているのかもしれない。
少し歩くとすぐに車に乗せられ、しばらく揺れに身を任せた。
時々首輪を繋ぐ鎖の音が鳴る。
ご主人様は無言で、沈黙は怖い。
訊きたいことはあってもこちらから話しかけることはなかった。


ご主人様の屋敷へ着いた。
今日から住む場所となるそこは蔦の絡まった古めかしい雰囲気を漂わせている。
鎖を引かれるままに庭を抜け玄関へと踏みいる。
絨毯が敷き詰められたそこは埃の匂いがした。
通された部屋は空気が淀んでいた。
家具は寝台のみが置かれている。
元は家具が置かれていたのだろう、隙間なく敷き詰められた絨毯はところどころ毛が倒れていた。

ご主人様は鍵によって私の首輪と足枷を外すと、淡々とした声で言われた。

「オマエの仕事を言う。掃除と食事の準備だ。食材を買うときは俺に言え」
「はい」
「質問は?」
「私はおなまえといいます。ご主人様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「……一方通行だ。それだけか」
「シャワーを浴びたいのですが」
「好きに使え。今日はもう寝ても構わねェ」

一方通行……変わったお名前だ。
一方通行様はローブのフードを下ろすと白髪を揺らして階段を上がられて行った。
冷たく綺麗なお顔がちらりと見えた。



翌日、私は早めに起きて朝食を作った。
といっても台所にはパンや卵程度しかなかったので簡単なものになってしまったけれど。
食卓に皿を並べ、待っても一方通行様はいらっしゃらない。
しばらくの間台所にあったコーヒーの空き缶、コンビニ弁当の空き箱を処分していたが、時計の針はもう10時を指し示している。
私は一方通行様を探すことにした。
昨晩彼が上がって行った階段を上る。
階段の先には廊下が広がり両側には十つほどの豪奢な扉があった。
扉には一つ一つ違う彫刻が施されている。
それらの扉を奥の方からノックをして開けていく。
ついでに換気をすることにした。
だいたいの部屋は客室か書庫のようだった。
7つほど開けたところでお目当ての部屋を見つける。

「失礼します……」

その部屋は他の部屋と違い、埃被った様子は見受けられなかった。
上品な家具たちが並ぶ中、天蓋付きの寝台で一方通行様が眠っている。
私は部屋の奥へと踏み入れ、ベルベットのカーテンを引き採光を取った。
一方通行様が目を覚ましたようだ。
眩しさにか目を眇めてこちらを睨む。
しまった。
私は肩を震わせた。

「奴隷風情が無断で部屋に入るたァどォいう了見だ?」
「……っ、申し訳ありません」
「まァ新人ってことで大目に見てやる。カーテンは閉めろ」
「失礼しました。あの、朝食の準備ができているのですが」
「朝はいい。夕飯だけ用意しろ。財布はそこの椅子にある」

そう言って彼は隅の椅子を指差した。
確かに革の財布が置かれている。

「俺は寝る」
「………お言葉ですが身体によくないのでは?」
「そォかオマエ……」

一方通行様は呟いた。

「夕方にはわかるだろ。もォ行け」

彼は寝ているところを起こされ不機嫌だ。
私とて、来て早々主人との仲を悪くしたくない。
鞄から財布を取り出すと、彼の言葉に従い部屋を出た。
可哀想な朝食は私の昼飯に当てることしよう。


食堂や廊下等の掃除を終えると次は私の部屋を掃除させて頂く。
これは私情ではなく健康的に仕事に従事するために必要なことなのだ。
そう自身に言い聞かせ、自室へと入った。
窓を開け掃除機で絨毯の埃を吸い取っていく。
空気が入れ替わったせいか晴れやかな気分になった。
掃除に結構な時間を裂いてしまったので、続きは明日に持ち越すことにする。
そろそろ夕餉の準備をしなければならない。
私に一方通行様の好みはわからない。
今日のところは無難そうなシチューにしてみようか、と思案する。
私は一方通行様の財布を手に取った。



帰宅すると丁度玄関にお客様が訪れたところだった。

「すみません、今戻ったところでして」

お客様は小さい段ボール箱を届けにきた配達業の方だった。
受け取った品物は要冷蔵とのこと。
冷蔵庫に移すため、台所で開封した。
中のものを見て目を丸くする。

「……………血?」

中身は輸血用パックだった。




to be continued...
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